大谷グラブ、開幕会場に最も近い“国境の島”へ チーム数減も…高まる「全員主役」の機運
長崎県対馬市で大谷グラブを活用した“野球を楽しむ”イベント開催
ドジャースの開幕試合が開催される韓国に最も近い“国境の島”で、機運が高まっている。長崎県対馬市で、ドジャース・大谷翔平投手が全国の小学校に贈ったグラブを活用したイベントが開催された。子どもの数や競技人口は減少しているが、参加した子どもたちは仲間と野球をする面白さを知り、応援する楽しさも満喫した。
約2万8000人が住む対馬は、南北に82キロと細長く、九州で最も人口密度が低い市でもある。2月12日、大谷からのプレゼントをきっかけに、市内に住む未就学児から中学生まで100人が集まった。行政や民間企業、地元のスポーツ団体やプロスポーツクラブが連携して、今年度立ち上げた任意団体「しまのスポーツ活性化実行委員会」が主催した「大谷グローブで野球しようぜ!」。市内の小学校に届いた大谷グラブを1つずつ、計16個を集めて野球イベントを開催した。
集まった子どもたちの野球経験はさまざま。中には、右利き用のグラブを右手にはめる子もいた。参加者は3つのグループに分かれて、「投げる」「打つ」「走る」を順番に経験。そして、試合形式のメニューで、仲間と一緒に1つのボールを追う楽しさを存分に味わった。
イベント開催の背景には、野球の競技人口減少がある。対馬市の小学校には現在、野球チームがなく、大谷グラブが届いても活用しきれていない現状があるという。学校で個別のグラブを保有していないため、大谷グラブが3つ届いてもキャッチボールしかできない。そこで、実行委員会は学校の垣根を越えて、子どもたちが目いっぱい野球を楽しめる場を設けたのだ。普段は「対馬トラッククラブ」で陸上の指導者をしている実行委員会のメンバー、林田章紀さんが語る。
「みんなで集まって野球をすれば、他の学校の子どもとも交流できます。また、保護者をはじめ地域の方々にも参加してもらえば、大人も大谷選手からのグラブに接する機会になると考えました」
選手だけでなく応援側も“主役”へ…枠組み越えたコミュニティを
今回のイベントでは野球をプレーするだけではなく、“応援する楽しさ”を伝えるテーマも掲げた。試合形式のメニューでは、子どもたちが打席に入るチームメートに声援を送ったり、名前をアナウンスしたりした。保護者やボランティアスタッフといった大人たちも拍手や歓声で盛り上げた。
林田さんは「子どもの数自体が減っている中で、競技人口を増やすのは難しい。その中で、野球を含めたスポーツに関わる人を増やしたいと思っています。プレーする人だけが主役ではなく、その場にいる人がみんな主役になって楽しめる場をつくっていきたいです」と未来を描く。
参加した保護者からは「運動への苦手意識が強い子どもを半ば強制的に連れて行ったが、積極的に動いている姿に驚いたし、うれしかった」「人見知りで最初はモジモジしていたが、後半は笑顔が見られた」などの感想が寄せられた。実行委員会の安田和哉さんは、「学校単位の部活が難しくなっている中で、イベントを通じて新たなコミュニティや、学校の枠組みを越えたチームや組織が生まれる機会をつくっていくことが目的です」と話す。
イベントには大谷のレプリカユニホームを着たり、エンゼルスやドジャースの帽子をかぶったりしている子どももいた。実行委員会のアドバイザーを務める鴛海(おしうみ)秀幸さんは「野球に興味がある人も、大谷選手に関心がある人も多いです」と熱を感じている。
実行委員会はイベントで「韓国でのドジャース戦よりも先に、対馬で野球を盛り上げましょう」と呼びかけた。そして、イベントの最後には「大谷、最高!」と大きな声を出して会場が1つになった。大谷グラブで広がった野球の輪。プレーだけではなく、応援する楽しみもある。
(間淳 / Jun Aida)
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