閉校になった母校から「練習改革」発信 後押し1000万円…球都に誕生の“最新鋭ラボ”
群馬・桐生市に「球都桐生野球ラボ」開設…老若男女使える高性能機器で「故郷元気に」
「球都(きゅうと)」を名乗る群馬県桐生市に、画期的な野球施設が誕生した。一般社団法人・桐生南スポーツアカデミーが、2021年3月31日限りで閉校となった県立桐生南高の施設を活用し、最新鋭の測定機器をそろえて開設した「球都桐生野球ラボ」だ。旗振り役の荒木重雄代表理事は、かつて千葉ロッテマリーンズの事業本部長を務めた経験があり、桐生南高野球のOBでもある。開設に至るまでの経緯や思いを聞いた。
「ワクワク感と、どうやって本当の意味で日本を代表するような施設にしていくかという使命感を、同時に感じています」。今月2日に行われたオープニングセレモニーで、荒木氏は顔を少し紅潮させて語った。
「球都桐生野球ラボ」は、クラウドファンディングで集めた寄付金1000万円で、桐生南高時代の柔道・卓球場を、室内野球練習場へリフォーム、ここに桐生市からの補助金820万円で、最新鋭測定機器を配備した施設だ。高精度レーダーで球速、回転数、回転軸、回転効率、変化量、リリースの位置などを測定する「ラプソード」、バットに装着したセンサーでスイングスピード、スイングの軌道などを測定する「ブラスト」、腕に着けたセンサーで投球時にかかる負荷を可視化する「パルススロー」、筋肉量、体脂肪率などを測定し、栄養評価も行える「インボディ」などを備えている。
荒木氏は「たとえば、『ラプソード』はメジャーリーグ全30球団、日本のプロ野球でも12球団中11球団が備えています。高いレベルの人たちが使う機器というイメージがありますが、われわれの施設では老若男女にご利用いただけます」と説明。さらに、次のように強調した。
「掲げるテーマは“練習改革”です。根性、気合も大事ですが、われわれは練習を楽しくしたい。これまでのように“なんとなく頑張る”のではなく、自分の力を全て“見える化”し、具体的な目標を立て、現状と目標のギャップを数値で把握した上で、トレーニングを積み重ねて埋めていく。このサイクルをどんどん回すことによって、練習が楽しくなっていくのです」
「計測は力なり」…子どもから高齢者まで全世代のデータ蓄積へ
確かに、プロ野球の世界などでは最近、全てが数値化され、「球離れが早い」「キレがいい」「伸びがある」といった抽象的な表現は“無効”になりつつある。それを、この施設を使って老若男女に広めていく考えだ。
打撃練習でも、これまでは調子がいいか、悪いかくらいしか認識できなかったものが、最新鋭測定機器を使うことによって、コースごとの打球速度などがわかり、「内角はいい当たりをしているが、外角低めが全然打てていないから、重点的に練習しよう」という形で把握できる。「そうなれば、練習が楽しくなりますよね」と荒木氏はうなずく。
子どもから高齢者まで、全世代のデータを蓄積していくことも狙いの1つだ。「健康寿命を伸ばしていく足がかりになればと思っています。“継続は力なり”ということわざがありますが、私は“計測は力なり”と言いたい」と笑みを浮かべた。
データ分析、トレーニングメニューの開発には、東京農業大の勝亦陽一教授らスポーツ科学の専門家4人がアドバイザーとして携わる。利用は有料で、3月中は桐生市在住の人たちやチームを対象にプレオープン。4月からは市外の人たちも対象に、本格的に始動する予定だ。
荒木氏は桐生南高を卒業後、青学大大学院国際マネジメント研究科修士課程を修了し、外資系のコンピューター・通信会社で約20年間サラリーマン生活を送った。2004年の球界再編をきっかけに翌2005年1月、ロッテに球団執行役員・事業本部長として招かれ、経営やファンサービスの改革に奮闘。パ・リーグ6球団の共同事業会社であるパシフィックリーグマーケティング、野球日本代表「侍ジャパン」を運営するNPBエンタープライズの立ち上げにも携わった。
2009年限りで退団し、独立。昨年還暦を迎えたのを機に、「生まれ故郷を元気にしたいという気持ちで」桐生市に生活拠点を移した。閉校となった母校の跡地に“夢の砦”を築き、感無量の表情だ。
もともと桐生市は野球が盛んな土地柄で「球都」を標榜。古豪の桐生高は春夏合わせて26回の甲子園出場、2回の選抜大会準優勝を誇り、桐生第一は1999年の夏に全国制覇を成し遂げた。2022年には、語呂合わせで9月10日を「球都の日」と制定している。
「この野球ラボで行うことを“球都桐生モデル”として、野球界、さらには広くスポーツ界へ発信していきたい」と語る荒木氏のチャレンジは、いま始まったばかりだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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