ドラ1→快挙目前も育成契約 大浴場に1人ポツン…24歳逸材が乗り越えた“孤独”
オリの2021年ドラ1・椋木が乗り越えた“孤独”な時間
ポツンと1人で浸かった大浴場が忘れられない。オリックス・椋木蓮投手は2022年9月30日に右肘のトミー・ジョン手術を受け、黙々とリハビリ生活に励んできた。今では実戦マウンドに戻ってきた24歳だが「あぁ……覚えていますね」と微笑むのは術後すぐの“お風呂”だった。
手術を受け退院すると、同僚たちはみやざきフェニックス・リーグで鍛錬を積むため、遠征に向かった。当時、球団寮に住んでいる「リハビリ組」は椋木だけで「寮のお風呂が1人だったんですよね。自分しかいなくて……。あの時は寂しかったですね」と頬を緩めながらも目線を下げた。
ふと顔を上げて「でも、楽しかったですよ。サウナも1人でした。貸切です」と言葉に強さを含ませた。部屋に戻れば「ゲームをしていましたね。(東北福祉大の後輩)入山と通信です。夜、連絡してヘッドホンをつけて話したりしていましたね」と寂しさを紛らわせた。
手術から約2週間、リハビリに専念するために育成契約に切り替わった。2021年ドラフト1位。プロ入り1年で3桁の背番号になった。ただ、自然と前を向けた。「そこまで落ち込むことはなくて。なんか……楽しかったですね」。目を細める理由がある。
「手術をする段階で、野球が1年間できないことがわかっていたので、考え過ぎることはなかったです。投げることが全くできないので、それ以外の部分で強くなるしかない。最初の1、2か月は本当に肘が曲がらなくて厳しいな……と思いましたけど、やる気がなくなったりしたことはなかったです」
右肘のトミー・ジョン手術も…先輩から「1年目でよかった」
周囲の支えもあった。「トミー・ジョン手術を受けたことのある先輩たちは『1年目でよかった。若いうちでよかったね』と言ってくれましたね」。巨人に移籍した近藤大亮投手や日本ハムに移籍した黒木優太投手、救援でブレークした山崎颯一郎投手ら、トミー・ジョン手術を経験した先輩らが心強かった。「トミさんが居てくれたのも大きいです」。同時期にリハビリ生活に励んだ富山凌雅投手への感謝も忘れない。
椋木は2022年7月7日の西武戦(京セラドーム)で、プロ初登板初先発初勝利をマーク。同年7月20日の日本ハム戦(京セラドーム)では9回2死までノーヒットノーラン投球を披露した“逸材”だ。
「今、振り返ってみたら(プロ1年目に)野球をしていたのは3か月くらい。濃度で考えたら充実していましたけど(怪我で)ずっとプレーはできなかった。だから今は……投げられることがすごく楽しいですよ」
順調に回復し、手術前よりもパワーアップした姿を披露する。孤独を乗り越えた男が、ゾクゾクと闘志を燃やしている。
(真柴健 / Ken Mashiba)