小中学生の定番メニューは「難易度高い」 指導者の負担減らす、超実用的“分割練習”
群馬県で中学指導者対象の講習会開催…巨人野球振興部が講師役に
心身の成長過程において個人差が大きい中学生年代に対し、公立教員はどのように野球を教えればいいのか、そのヒントが詰まった濃密な時間となった。読売巨人軍の野球振興部は2月上旬、群馬県前橋市で開催された同県中体連の野球指導者講習会に参加。114人の参加者を前に、最新の理論を交えて約1時間半にわたり講義を行った。
登壇したのは、野球振興部長の倉俣徹氏と、球団OBの成瀬功亮、北之園隆生の両コーチ。倉俣氏は地元である群馬で中学硬式の強豪、高崎中央ボーイズを率いる監督としての顔も持つが、競技人口減少に歯止めをかける上で、選手数が多い中学軟式も重視。一昨年、昨年と中体連と協力し、県軟式選抜チームと高崎中央ボーイズとの“異種対戦”を実現するなど、垣根を越えた交流に力を入れている。
この日も、日米の大学・大学院でスポーツ医学を学び、巨人トレーニングコーチや中学硬式の指導者として、長年培ってきた知識と経験を惜しみなく披露した。
まず倉俣氏が語ったのが、中学生年代の運動能力の特徴についてだ。13~15歳は「ポストゴールデンエイジ」と呼ばれ、小学生以前に養われた“ボール感覚”や“野球勘”など、脳が刺激を受けることで発達する能力が低下する一方、神経系の発達によって戦術的・組織的なプレーができるようになり、筋肉の強さ・太さも発達して“大人の体つき”になると説明。
それを踏まえ、「個々の成長差はありますが、中1で持久力、中2で身長、中3で筋力が発達ピークを迎えることを意識して指導することが大切です」。具体的には、【1】コーディネーション(調整力/自分の体やボール・バットなどの道具を自在に動かせる能力)、【2】コンディショニング(体力/筋トレや持久走、ストレッチなど)、【3】技術、【4】戦術、【5】メンタルの5つを指導の柱とすると語った。
選手たちの集中力を高める「サーキット型」と「分習法」
そこから“5本柱”について、より詳細に、成瀬、北之園の両コーチと共に実演を交えながら解説。その中で倉俣氏が強調したのが、次の2つのポイントだ。
・ウオームアップ(自体重トレ、ストレッチ)、キャッチボール、ゴロ捕球、打撃練習、ランニングなどのメニューを、1種目15~20分に区切り「集中力を保つ」こと。
・技術習得において、上半身・下半身・腕など、それぞれの動きをポイントで分割して伝える「分習法」が有効であること。
「分習法は、経験の少ない教員でも、ポイントを理解していれば誰でも同じように指導でき、初心者へも教えやすいことが利点です」。この日も、キャッチボールの投げ方を「構え」「足の挙上」「体重移動」「リリース」「フォロースルー」に分けて指導する実例などを紹介した。
こうしたドリルなどの練習の引き出しを増やし、短時間に区切ったサーキット形式で行うことで、子どもたちも飽きることなく、楽しく日々の練習に取り組める。倉俣氏は「ぜひ、分習法という言葉は覚えて帰っていただきたい」と強調した。
元プロの成瀬氏、北之園氏による最新理論を交えた講義も貴重な機会となった。成瀬氏は、大谷翔平投手(ドジャース)らが取り入れる、テークバックの小さい「ショートアーム」のメリットやリスクについて話し、また、中学から解禁になる変化球には、「技術的に高度なカーブより、直球と同じ腕の振りで投げられるチェンジアップがお勧め」と語った。
北之園氏は、同じく昨今話題の「縦振り」の長所・短所について説明し、スイングの際、バットと両肩のラインが平行かを確認することと、「縦振りでも、バットを内側から出すインサイドアウトが大切であることに変わりはない」と解説した。
学童や中学には難しいペッパー…倉俣氏推奨の方法なら「実践しやすい」
東京都中体連と協力し、既に都内では90回ほど野球指導を行うなど、中学軟式の現場をよく知る倉俣氏らの講義は、参加者からも好評だった。日本中体連軟式野球競技部長を務める土屋好史氏(高崎市立群馬中央中教員)は、「中学校の教員は専門性がなくても野球を教えなければいけないケースもある。そうした負担を和らげることができる、実のある講習会でした」と語った。
部員数の減少、コロナ禍も相まった子どもたちの運動能力低下など、さまざまな問題を肌で実感している教員たちからも、「実用的でためになった」との声が聞かれた。公立教員には他校への異動が伴うが、分習法などの練習手順がチームに根付いていれば、新任の教員にとっても子どもたちにとっても、戸惑いを減らす材料になる。
例えば、バットコントロールを磨く練習。学童や中学では、投手が投げたボールを打ち返すペッパー(トスバッティング)が定番だが、「ペッパーは難易度が高い」と倉俣氏が代わりに提案したのが、投手は下から投げ、打者はバットのグリップを広く持って、バントのようにワンバウンドで打ち返す方法だ。
「これならば初心者も簡単にでき、真芯に当てる感覚が習得できます。同じ形でノーバウンドで返せば、打球にバックスピンをかける技術も身に付けられます」と倉俣氏は説明。「ペッパーをやろうとしても、投手に打ち返せない以前に、ストライクが投げられない選手もいる。中には壁当てすらままならない子もいるんですが、これならば実践しやすい」と納得する教員もいた。
講習後に行われた懇親会では、倉俣氏はもちろん、成瀬氏や北之園氏に直接質問する教員の姿があるなど、実り多きものとなった。プロ・アマの壁を越えた情報共有の機会は、球界発展を促進させる上も大きい。こうした“熱き交流”が、今後も広まっていくことを期待したい。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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