高校生が小学生と“鬼ごっこ”!? 体力低下に危機感…選手発信、地域変える「研究室」

大垣北高校による「大垣北Jrベースボールラボ」の様子【写真:高橋幸司】
大垣北高校による「大垣北Jrベースボールラボ」の様子【写真:高橋幸司】

岐阜の高校グラウンドから野球界活性化へ…「大垣北Jrベースボールラボ」

 野球人口減少や子どもの体力低下が問題となる中、高校生が主体となって小学生対象の野球教室を開き、課題解決や地域活性化に貢献する取り組みが行われている。岐阜県大垣市の県立大垣北高校野球部による「大垣北Jr(ジュニア)ベースボールラボ」だ。野球教室というとオフシーズンのイベントの印象があるが、同ラボは月1、2回、年間を通して継続的に実施しているのが特徴。スポーツ庁からも評価された試みとは、どのようなものだろうか。

 高校生と小学生が、みんなで「鬼ごっこ」!? 高校のグラウンドの中で子どもたちの元気な声が響き渡る、そんな“珍光景”が日常となっているのが岐阜県屈指の進学校、大垣北高校だ。創立125周年を迎えた歴史ある野球部が実施する、地元の小学3~6年生対象の「大垣北Jrベースボールラボ」は、2023年1月にスタートし、今年2月で17回目を迎えた。

 夕方4時半、野球部のマネジャーが作成したIDカードを持ち、子どもたちが続々とグラウンドに集まってくる。現在は約130人の小学生が登録し、多い回には50~60人が参加。取材に訪れた日も約30人が、ベースボール5にキャッチボール、グループに分かれての打撃練習、ドッジボール、立ち幅跳びなどの体力向上メニュー、そして最後に全員での「鬼ごっこ」と、20人の部員のサポートを受けながら約2時間に渡って体を動かし続けた。

 ラボ誕生のきっかけは、野球人口のみならずスポーツ人口が減少していること、子どもたちの運動能力が低下していることへの危機感だ。「総合的な探究の時間」の授業の中で現状を知った選手たちは、近藤健二監督のサポートを受けながら調査。かつて部員が所属していたスポーツ少年団の選手数が、3分の1にまで激減していた例もあったという。

「小学生がスポーツに触れる機会が少ない現状を改善するためにも、運動ができる場所がある人たちが関わっていくことが大事ですし、自分たちの持つ技術や知識を伝えることができればと考えました」と、企画を主導した無藤蓮生(むとう・れん)主将(2年)。高校の施設を活用した野球教室の実施によって、子どもたちの運動への意識がどう変化し、地域がどう活性化していくのか。“研究室”の意味も込めて「ラボ」と名づけたのだ。

苦手な子どもが多いという立ち幅跳びも高校生が教える【写真:高橋幸司】
苦手な子どもが多いという立ち幅跳びも高校生が教える【写真:高橋幸司】

2時間動き続けているのに…疲れない子どもたち、自己評価も向上

 教室の中身も、近藤監督からアドバイスを受けながら選手たちが決めている。「継続的に行うには、選手1人1人が責任を持たないと成り立ちません。大人が入ると子どもたちには窮屈になりますが、高校生から教えてもらうとスッと入りやすい」と近藤監督。教室の間、参加者の怪我のリスクに注意を払いながらも、指揮官が口を出すことはほとんどない。

「メニューについては、楽しめることと安全管理を第一に考えています。ドッジボールは投げる動作が野球につながりますし、僕が小学生の頃にやっていて楽しかったのもありますね(笑)。鬼ごっこは初めて取り入れましたが、いつもと違うメニューを1つ入れるだけでマンネリ化を防げます」と無藤さん。副主将の高井優希さん(2年)は、「いろいろな動きの入る鬼ごっこには、アジリティ(敏捷性)や瞬発力を高める目的もあります」と説明する。

 休日や長期休みに行う際には、校舎内を使って学習の時間も設けられる。継続的な取り組みは着実に成果として現れ、参加者から定期的にアンケートをとると、野球技術についても、野球や学習へのモチベーションについても、子どもたちの自己評価は向上。「家でストレッチをするようになった」「勉強をするようになった」など、保護者の反応も好意的だという。

 確かに驚いたのは、2時間もの間、子どもたちが全く疲れた素振りを見せることなく運動し続けていたことだ。体力・集中力の向上はもちろん、“お兄さん・お姉さん”のような年齢の近い高校生たちと接することが、子どもたちのマインドを前向きにさせているのだろう。

 小学5年生の木村星華さんは「打撃の時に上体が前屈みになっているので、後ろに起こした方がいいとか、技術的なことがためになりました」と言い、同じく5年生の舟橋香穂さんも「ボールを捕る時の姿勢など、基本的なことを教わることができました」と語る。2人は節目の15回目の参加。無藤主将から創部125周年ロゴ入り記念球をプレゼントされ、「楽しくて、毎回来たくなります」と笑顔を見せていた。

「創部125周年」ロゴ入りボールをプレゼントされ笑顔の参加者【写真:高橋幸司】
「創部125周年」ロゴ入りボールをプレゼントされ笑顔の参加者【写真:高橋幸司】

スポーツ庁からアワード受賞…「他にも広まっていくことが重要」と主将

 昨年1月のスタート時は50人ほどだった登録者数は、口コミや友達とのつながりで、回を重ねるごとに増加。近くから自転車で来る子も入れば、保護者に付き添われ車で20~30分かけてやってくる子もいるといい、「高校生と、小学生・地域との距離は間違いなく近くなりました」と近藤監督も実感している。

 高校生主体となったこの試みをスポーツ庁も評価。この3月、スポーツ人口拡大に貢献する取り組みを表彰する「Sport in Lifeアワード」の団体部門優秀賞に選出された。

「通過点として賞をいただけたことはモチベーションになります。同じような取り組みが、他の高校にも広まってくれれば。それが、何よりも重要だと思います」と無藤さん。既存の枠組みや思考にとらわれない、こうした取り組みが全国に広がれば、野球界のみならずスポーツ界の未来は、必ず明るいものとなるに違いない。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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