“桁違い”の大会1号…プロ注目の大砲に残された課題 スカウトは「独特の雰囲気」

豊川のモイセエフ・ニキータ 【写真:田中健】
豊川のモイセエフ・ニキータ 【写真:田中健】

右翼ポール際へ1発、一方で3三振も「思っていたのと違う球が来た時の対応」

“大会最強打者”の魅力と課題が浮き彫りになった。第96回選抜高校野球大会の第2日が19日、甲子園球場で行われ、豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータ外野手(3年)が第1試合の1回戦・阿南光(徳島)戦に「3番・中堅」で出場。8回に右翼ポール際へ大会第1号本塁打となる2ランを放った。結局5打数1安打2打点3三振で、チームは4-11の大敗を喫した。

 1-5とリードされた8回、1死一塁で第4打席を迎えたモイセエフは、阿南光のエース右腕・吉岡暖投手の1球目、2球目を空振り。カウント0-2と追い込まれたが、3球目に外角高めに浮いたフォークを見逃さなかった。引っ張った打球は右翼ポール際へ飛び込み、記念すべき“今大会1号”となった。

「第3打席まで結果が出ていなくて、キャプテン(主将の鈴木貫太内野手=3年)から『りきんどるから、もっと力を抜いて楽な気持ちで打席に入れ』と言われていました。それでも少し固さがありましたが、追い込まれてからは開き直って、つなぐ意識でやれたことが結果につながったと思います」と振り返った。

 今大会から金属バットに“新基準”が導入され、従来と比べると最大直径は細く、打球部分は肉厚になり、反発性が抑えられた。各選手の飛距離は明らかに落ちている。大会2日間、計6試合を消化して、本塁打はこのモイセエフの1本のみ。桁違いの長打力を実証したと言える。

 ただし同時に、未熟な部分も露呈した。1回の第1打席はカウント2-1から、吉岡の外角高めのフォークを空振り。続く5球目には、内角高めに浮いたフォークを思わず見送り、三振に倒れた。「低めのフォークで空振り三振を取りにくるイメージがあって、低めに手を出さないように自分に言い聞かせていたら、思いがけず高めに来ました」と振り返る。「思っていたのと違う球が来た時の対応が、自分はまだまだできていない。そういうところも練習していきたいです」と猛省する打席となった。

ヤクルト小川GM「とらえさえすれば、バットの新基準は関係ない」

 4回先頭の第2打席は、初球から3球連続90キロ台のカーブで攻められカウント1-2。続く4球目にワンバウンドのフォークを振らされ、あえなく2打席連続三振に仕留められた。

 6回2死走者なしの第3打席は一転、初球から3球連続フォークでカウント2-1。4球目に膝元のスライダーを見逃した後、5球目の真ん中高めの速球に詰まらされ、右飛に打ち取られた。

 大会第1号で一矢報いたが、9回2死満塁での第5打席は、カウント0-2から外角高めのフォークに空振り三振。吉岡から3つめの三振を喫し、この試合の最後の打者となったのだった。

 ネット裏に詰めかけたプロのスカウト陣も当然、モイセエフの打撃には興味津々。ヤクルトの小川淳司GMは「ボールをとらえさえすれば、バットの新基準は関係ないですね。構えた時に独特の雰囲気がある」と目を細め、西武の渡辺久信GMも「バットをあれだけ振れるのは魅力。今後追いかけてみたい選手」と評した。

 課題は、打撃の粗さだ。豊川サイドも承知している。長谷川裕記監督は「吉岡くんに、めちゃくちゃいい配球をされました」と認めた上で、「たとえばボールになるフォークを1球見遅れていれば、相手の配球は変わっていたはずです。もっと言えば、カーブくらいなら、真っすぐを狙っていても1度止まってからガンと打てるくらいの技術をつけていかないと」と高いハードルを課す。

 モイセエフがプロ志望を公言していることを踏まえて、「単に大きいのを打つ選手なら、世の中にたくさんいる。その中でどう3割を残していくかを考えるきっかけにしてほしい。たとえば、山本由伸投手(ドジャース)のフォークにくるくる空振りするばかりでは、一生打てない。1球見逃せるとか、あるいは頭を使って対応できる野球技術をつけていかないと」と奮起を促した。

 モイセエフも「プロは入ってからが勝負ですので、(プロに入ることではなく)プロで活躍することを意識して、この先も練習していきたいです」とキッパリ。「自分自身まだまだ足りないことが多い。選抜ではそれほど結果が出ませんでしたが、一段階レベルアップして、夏にもう1度甲子園球場に戻ってきたいと思います」と誓った。成長後の姿が、楽しみでならない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY