「ダメだったら去らなきゃいけない」 35歳で迎えた契約最終年…攻守に滲んだ危機感
巨人・梶谷は阪神との開幕戦勝利に攻守で貢献した
■巨人 4ー0 阪神(29日・東京ドーム)
巨人は29日、本拠地・東京ドームで行われた阪神との2024年開幕戦に4-0で勝利。就任1年目の阿部慎之助監督が初陣を飾った。「3番・右翼」に抜擢した18年目・35歳のベテラン・梶谷隆幸外野手が、超美技と値千金の1号2ランで勝利に大きく貢献した。
「疲れた~。これで明日デーゲームだなんて、めちゃくちゃや」。グラウンドでヒーローインタビューを終え、報道陣が待ち構えるベンチ裏に現れた梶谷は開口一番、苦笑まじりにジョークを放った。試合終了は午後9時9分で、翌日の試合開始は午後2時。開幕スタメンは巨人移籍1年目の2021年以来3年ぶりだけに、半分本音だったのかもしれない。
両チーム無得点で迎えた3回の守備。1死一、二塁で、阪神・森下翔太外野手が右中間へ放った痛烈な飛球を、ダイビングキャッチ。抜けていれば2点を奪われてもおかしくなかったが、ボールはすぐに梶谷から吉川尚輝内野手→岡本和真内野手へと転送され、飛び出していた一塁走者を刺して併殺でピンチを脱した。
阿部監督は「抜けたと思いました。素晴らしいプレーでしたね」と称賛。ギリギリのプレーに見えたが、梶谷本人は「捕れると思ったので飛び込みました」と、決して一か八かではなかったことを強調した。
5回の攻撃では、ドラフト3位ルーキー・佐々木俊輔外野手の内野ゴロの間に1点先制し、なお2死二塁の好機で迎えた第3打席で、阪神先発・青柳晃洋投手のストレートを一閃。右翼席中段へ運んだ。
第1、第2打席では連続三振を喫していたが、この打席では内角のストレートを2球ファウルし、外角の際どいコースを1球見逃してフルカウントとなった直後の7球目、内角いっぱいの難しいコースに来たストレートをとらえた。「うまくさばけました。(内角に来る)イメージはありました。状況やカウントが1球1球変わる中で、いろいろ考えて出た結果だと思います」としてやったり。ベテランの読みが光った。
オープン戦打率.357、オドーア電撃退団の衝撃も払拭した
2020年オフにDeNAから移籍後、故障がちで不本意なシーズンが続いている。2021年の10月に腰椎椎間板ヘルニア、翌22年5月には左膝内側半月板の縫合手術を受け、同年12月にいったん育成契約となる苦汁をなめた。今年の春季キャンプも2軍スタートで、「2軍にいる時、(阿部監督から)『チャンスはどこかであげるから』と言われましたが、絶対にそのタイミングで結果を出さないとダメだと思いました」と危機感を募らせていた。
オープン戦で打率.357(14打数5安打)の打棒を振るい、阿部監督は「状態がいい選手を使っていこうと、ヘッド(二岡智宏ヘッド兼打撃チーフコーチ)と相談しました」と、開幕3番を任せる決断を下したのだった。
また、巨人ではメジャー通算178本塁打を誇り、鳴り物入りで加入した新外国人ルーグネット・オドーア外野手が、オープン戦打率.176の不振にあえいだ上、開幕直前に電撃退団。チームに衝撃が走ったが、オドーアの代わりに右翼に入った梶谷が暗雲を振り払った格好だ。
阿部監督は梶谷を「(故障の多いここ数年は)本当についていない感じに見えていた。こちら(首脳陣)が大事にうまく休ませながら、やりくりしてあげれば、もともとポテンシャルはすごいものを持っている選手」と評し、「とにかく1年間、怪我なくやらせることが僕らの仕事だと思っています」と言い切った。
故障が多い選手を腐すのは簡単だが、新監督はあえて“首脳陣の責任”として引き受けた。梶谷としては、意気に感じずにはいられないだろう。
4年契約の最終年を迎えた梶谷は、「ダメだったら去らなきゃいけない、というのは誰だって思うこと。もちろん野球をまだ続けたいので、なんとか食らいついていきたいという気持ちです」と覚悟を決めている。「移籍1年目は確約されていたものもありましたが、今はもう、やるかやられるかという立場なので、痺れます」と心境を明かす。
若手の競争心をあおりながら、実績のあるベテランをどう有効活用していくかが、阿部監督の腕の見せどころ。まずは理想的な形で開幕戦白星を挙げた。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)