屈辱の打率.000…崖っぷち29歳に「どうせ打てない」 阿部監督がかけた“魔法の言葉”

阪神戦でヒットを放った巨人・松原聖弥【写真:矢口亨】
阪神戦でヒットを放った巨人・松原聖弥【写真:矢口亨】

7回1死二、三塁の好機に勝利を引き寄せる中前2点適時打

■巨人 5-0 阪神(30日・東京ドーム)

 復活へ向けて階段を上がっている巨人の松原聖弥外野手が30日、本拠地・東京ドームで行われた阪神戦に代走で途中出場し、7回に迎えた今季初打席で2点適時打を放った。1軍で「H」のランプを灯したのは2年ぶり。チームの開幕2連勝を引き寄せた殊勲打の裏には、阿部慎之助監督から掛けられた“魔法の言葉”があった。

 巨人は6回に岡本和真内野手が先制1号2ラン、続く坂本勇人内野手も1号ソロを放ち、3点を先行したものの、勝敗の行方はまだ明確に見えたわけではなかった。

 続く7回、1死二、三塁の好機。6回に梶谷隆幸外野手の代走で登場し、そのまま右翼の守備に就いていた松原が、左打席に入る。阪神3番手の右腕・石井大智投手に対し、カウント0-2と追い込まれたが、3球目のシンカーがやや高めに浮いたところを逃さなかった。中前に運んで2人の走者を迎え入れ、「プロ初ヒットと同じくらいうれしいです。2年ぶりに開幕できたので、このままいきたいです」と頬を緩めた。

 2016年育成ドラフト5位入団の立場から這い上がった松原は、2021年に135試合に出場し打率.274、12本塁打、15盗塁をマーク。レギュラーの座をつかんだように見えた。しかし、翌2022年には50試合出場、打率.113と低迷。昨季に至っては21試合出場で、12打数ノーヒットに終わった。

 1月に29歳となり“崖っぷち”の状況で迎えた今季、1軍キャンプのメンバーに選ばれ、就任1年目の阿部監督からマンツーマン指導を受ける姿が目立った。オープン戦打率.320(25打数8安打)の結果で応え、2年ぶりの開幕1軍に漕ぎつけていた。

 この日、松原が殊勲打を放った直後、ベンチに戻って阿部監督から掛けられた言葉は「どうせ打てないだろうと思っていた」だったという。「監督からはずっと『どうせ打てないから』と言われています。そう言われると、気持ちが楽になります。悪口ではなく、愛情のある言葉なので、ありがたいです」と明かした。

「凡打でもしかたがないと思えるようになったことが大きい」

 不振にあえいだ2年間、「打てなかったらどうしよう」という不安に苦しみ続けた。「今年はまだネガティブなところが出ていませんが、これからはちょっとわからないです。僕は気持ちが弱くて、そういう性格を変えるのは難しいですが、(首脳陣が)それを出さないように後押ししてくれているのを感じています」と揺れる心の内を明かす。

「今日は、凡打でもしゃあないと思って打席に入りました。しかたがないと思えるようになったことが大きいと思っています」と言う。

 阿部監督は松原を「今年は生まれ変わったようになっていて、野球を楽しそうにやっている」と評し、「ポテンシャルはあるので、使いようだと思います。僕らがなんとかいい後押しをしたいと思います」と気遣う。これには松原自身「のびのび楽しくやらせていただいていて、ありがたいです」と感謝している。

 成績が急落する選手にはそれぞれの理由があり、尻を叩けばよみがえるとは限らない。新監督の選手操縦術はきめ細かい。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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