SNSに届いた「終わりだな」 空回りでイップスに…2年間1軍未登板、24歳右腕の逆襲
DeNAの徳山壮磨は早大から2021年ドラフト2位で入団も2年間1軍登板なし
DeNAの徳山壮磨投手はプロ3年目の今季、1軍デビューを果たすと、3試合に登板して計4イニングを投げ1安打無失点、防御率0.00を継続している。早大から2021年ドラフト2位で入団。即戦力と期待されながら2年間は1軍登板なしに終わった24歳右腕が、ついに逆襲に転じている。
「いろいろな方に『表情が変わった』って言われるんです」。そう言って徳山は、楽しそうに笑う。これまで纏っていた悲壮感はない。投げられる喜びを全身で感じながら、マウンドで自分を表現している。
辛く、苦しい2年間だった。大阪桐蔭高3年時に選抜優勝、早大では東京六大学リーグで最優秀防御率に輝くなど輝かしい経歴を引っさげ、プロの門をたたいた。同期のドラフト1位は将来性を買われた高卒の小園健太投手。否が応でも“即戦力”と見られた。
1年目は1軍キャンプを完走してオープン戦では3試合に登板したが、3月上旬に2軍に合流。イースタン・リーグでは調子の波こそあったものの、17試合登板と経験を積んだ。そしていざ勝負の2年目、となるはずだった。年が明けてすぐ、異変に気付いた。
「イップスで全然ボールが投げられなくて……。1年目にもたまに怖さが出るときはあったんですが、2年目の1、2月くらいは明らかに投げたら変なところにいってしまう。やってやるぞ、と思っていたのが余計に空回りしてしまって、うまくいかない。逆にどん底に落ちてしまいました」
SNSで見た心ない声に「自分でもこのまま終わってもおかしくないと…」
テレビをつければ、高校生が楽しそうにボールを投げていた。でもプロ野球選手の自分は投げられない。悪夢にうなされ、葛藤する日々に「ずっと逃げたかったというのが一番の思いでした」と吐露する。しかしメンタル面でのアドバイスを受けながら「ふと、もったいないなと思ったんです。プロ野球選手は寿命が短くて、40歳までできたら凄い。だから今の置かれている状況でどう楽しんでポジティブに考えてチャレンジするかっていうところに気が付いたんです」。徳山が変わるきっかけとなった。
7月以降は2軍戦16試合で防御率0.95。マウンド上では気持ちをつぶやきながら自分をコントロール。精神的にも大きく成長し、9月には登板機会こそなかったものの1軍登録も2度経験した。オフはオーストラリアン・ベースボールリーグ(ABL)に参戦して10試合で3セーブ、防御率2.70、10イニングで14奪三振。徐々に積み重なる成功体験が自信に変わっていった。迎えた今季、オープン戦では自己最速を一気に4キロも更新する156キロをマークするなど存在感を示して初の開幕1軍を掴んだ。
SNSには心ない声が届き、「終わりだな」などと書かれているのを目にしたことも少なくなかった。「自分でもこのまま終わってもおかしくはないと思っていましたし、焦りはありました」というのが本音だろう。しかし「そういう人たちに度肝抜かせたいなという気持ちでしかないですよね。反抗心とかではないですけど、期待してくれた方や声を掛けてくれた方に恩返ししたい気持ちはありますし、徳山ってあんな状態だったけどあそこまで上がれているんだぞいうのは投げて表していきたいんです」と、たくましく這い上がってきた。
回り道があったからこそ、試合で投げる喜びを人一倍持つ。一方で、厳しい世界であることも重々承知している。「まだ、やっとスタートラインに立てただけ。あれ以上の挫折はないんじゃないかと思っていて、まず投げられていること自体が自分の中では凄いことなので、ポジティブにどんどんチャレンジしてやっていく立場だと思っています」。やっとたどり着いた舞台。徳山が輝く時間は、まだまだ残っている。
(町田利衣 / Rie Machida)