専用球場なし、練習は短時間でも“聖地4強” 東大生も輩出する強豪の「文武両道」

國學院久我山の尾崎直輝監督(左端)【写真:伊藤賢汰】
國學院久我山の尾崎直輝監督(左端)【写真:伊藤賢汰】

2022年選抜ベスト4…國學院久我山は限られた環境を「目一杯使うことを考えて」

 春夏通算7度の甲子園出場を誇る國學院久我山(東京)は、限られた練習スペースと練習時間でありながら、2022年選抜ではベスト4入りを果たすなど、都内有数の強豪校として知られる。1991年夏、2年生で甲子園に出場したOBの井口資仁氏(元ロッテ監督)が在籍していた当時からほとんど変わらない環境下で、どのようにして結果を残し続けているのか。尾崎直輝監督に指導方針などを聞いた。

 専用球場はない。グラウンドは狭く、サッカー部など、他の運動部と共用で使用する。進学校としての側面も併せ持つため、平日は3時間程度で練習を終え、勉強時間を確保しなければならない。合宿所もなく、自宅から1時間以上かけて通学する部員も多い。ただ、尾崎監督はこの環境をむしろプラスと捉えている。

「どこの環境に行ったとしても、言い訳はいくらでもできます。言い訳をするよりも、この環境を目一杯使うことを考えてほしい。文武両道で勉強も大変ですね、とよく言われるのですが、高校は教育機関なので、勉強するのが本分。かつ、部活動で野球という教科を学ぶようなものだと思っています。野球をする時に勉強を言い訳にしてほしくないし、勉強をしている時に野球を言い訳にしてほしくはないですね」

 野球と勉強。両方をおろそかにすることなく、国公立大や難関私大へ進んだOBは数知れない。今春には、2022年選抜でベスト4入りに貢献した左腕の松本慎之介さんが一浪の末、東大の理科二類に合格した。野球部から東大に合格したのは、2017年の土井芳徳さん以来、史上2人目の快挙だという。

「松本は努力の人間です。1年生からずっと主力だったわけではないのですが、しっかりと積み重ねていって、140キロ近いボールも投げるまでになって、甲子園に行った時も、3枚いる投手の中で、彼も頼りになる投手でした。野球も勉強も同じで、その瞬間で答えを出していくじゃないですか。勉強をすることで培われる集中力の持続、創意工夫、応用問題への対応力は、必ず野球に生きてきます」

國學院久我山のグラウンド【写真:伊藤賢汰】
國學院久我山のグラウンド【写真:伊藤賢汰】

野球部から史上2人目の東大合格…重要視するのは「考える野球」

 重要視するのは「考える野球」。平日の何日かは課題別練習を取り入れ、1人1人にメニューを作らせる。得意なことをやりがちな選手も、やがて自分に足りないものは何かを考え、それを補う練習に切り替わっていく。

「必要なことの選択であってほしいんです。例えばバッティングが得意で、そればかりやっても、守備に不安があったら、フルで試合に出続けることはできません。『試合に出続けるためには何が必要かを考えて練習をしよう』とアプローチしています。彼らは勉強ではその意識があって、この教科が何点足りなかったから、何時間勉強しようというのがスムーズに出ます。それを野球に置き換えれば、もっと細分化できるんじゃないかという話をして、年数を重ねると、やりたいことだけではなく、必要なことをやり始める瞬間が本当に面白いです」

 環境に限りはあっても、アイデアは無限に広がっている。そのアイデアを具現化し、野球へと落とし込むことができるからこそ、國學院久我山は結果を出し続けることができる。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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