イチロー氏が承認「すごくいい」 打球方向を“限定”…空間を最大限に生かす打撃練習

2021年に国学院久我山を指導したイチロー氏【写真:代表撮影】
2021年に国学院久我山を指導したイチロー氏【写真:代表撮影】

2022年選抜4強…国学院久我山・尾崎直輝監督の心の支えとなった“2人の恩師”

 東京都内有数の進学校でありながら、2022年選抜でベスト4入りするなど、春夏通算7度の甲子園出場を誇る国学院久我山を率いる34歳の尾崎直輝監督は、2013年秋、23歳の時にコーチから指揮官へと昇格した。そして就任6年目の2019年夏に自身初の甲子園出場を果たし、同校初の1勝。平成生まれの監督として夏の甲子園初勝利でもあった。尾崎監督に、指導方針などを聞いた。

 自身の経験が指導に生かされている。國學院久我山では肩と腰を故障し、マネジャーと学生コーチを兼務。国学院大では硬式野球部に入部せず、人間開発学部健康体育学科の1期生としてスポーツにおける正しい身体の使い方を学び、卒業と同時に母校のコーチに就任。その秋から監督を任された。

 高校の保健体育科教員だが、最初は隣接する国学院大付属幼稚園の事務職で採用され、未就学児に対して体育の授業を担当。現在も週1回のペースで一緒になって体を動かしている。

「基本は体操のお兄さんですが、ダメなことはダメだよ、という話はします。野球の指導にも役立っているところがあって、気づかせるために、大きな声を出して緊張感を与えることはすごく大事だと思うんです。親だって子どもが道路に出たら『危ない!』って大声を出すじゃないですか。野球でも、ここっていう場面では大きな声を出して指示を通す。だから生徒たちにも、声の抑揚をつけよう、という話をしています」

国学院久我山の打撃練習の様子【写真:伊藤賢汰】
国学院久我山の打撃練習の様子【写真:伊藤賢汰】

東北、仙台育英で春夏27度の甲子園…竹田利秋さんは「育ててくれた恩師」

 そんな熱血漢あふれる尾崎監督には、2人の“師匠”がいる。1人は、東北、仙台育英(ともに宮城)の監督として、春夏27度の甲子園出場を果たした竹田利秋さん。国学院大総監督を務める竹田さんは、尾崎監督が就任と同時に高校側から「若い指導者を育ててほしい」と依頼を受け、不定期で指導に訪れる。その野球観は、83歳となった今でも衰えることはなく、むしろ磨きがかかっている。

「竹田先生は『ここを見たらいいよ』と言ってくれる程度なんですけど、ヒントをくれるんです。最初はわかりませんでしたが、竹田先生の野球を見るポイントが理解できるようになってきたので、今はちょっとずつ野球が面白くなってきました。僕のことを全部育ててくれた恩師だと思っています」

 そしてもう1人はイチローさん(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)だ。2021年11月に臨時コーチで指導を行ってもらったことが、翌年選抜の好結果へとつながった。

 そのイチローさんから「取り組んでいる全てを承認してもらえた」ことが、尾崎監督にとっては大きかったという。

「ウチは場所が限られているので、バックネットに向かって3か所で行うバッティング練習があるんですけど、『この練習、すごくいいよ。横にネットが置いてあるから、センター返ししかできない。これでフルスイングができるようになったら本物だね』と。『久我山がこんなに練習をするとは思ってなかった』とも言っていただきました。選手にはこの環境でできることを最大限にやれと言っていますけど、施設を整えないといけない立場なので、気にはするじゃないですか。でもイチローさんは承認してくれた。それが本当にうれしかったです」

 今年は巨人・矢野謙次打撃コーチの長男である矢野丈太郎外野手や、4番の原隆太朗内野手(捕手兼任)ら、下級生の頃から試合に出ていたメンバーが健在。春季大会で背番号「1」を獲得した2年生エースの柳本晴投手ら投手陣をもり立てながら、4度目の夏甲子園を目指す。

「データに頼らなくても、見て、感じて、動いた先がデータと全く一緒だったというのが理想の野球です。相手のことばかり気にしているうちはたいしたことはないし、トップに立つ人たちは、自分たちの最高のパフォーマンスをすれば勝てるというのがわかっています。選手たちが持っているものを全て出した先に、甲子園優勝がつかみ取れるようなチームを作り上げたいですね」

 様々な経験や出会いに感謝しながら、尾崎監督は生徒のために、今日も心血を注いでいる。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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