2軍でタイトルも戦力外「頭が真っ白に」 球団から渡された手紙…元阪神ドラ1が理解した現実

育成選手時代の元阪神・横山雄哉氏【写真提供:産経新聞社】
育成選手時代の元阪神・横山雄哉氏【写真提供:産経新聞社】

ドラ1の横山雄哉氏は2020年に支配下復帰、2軍でタイトル獲得も戦力外

 2014年ドラフト1位で阪神に入団した横山雄哉氏は、度重なる怪我に悩まされ2020年シーズン限りで現役引退した。最終年はファームでタイトルを獲得するまで回復したが、予想もしない戦力外通告。一度は現役続行も考えたが「頑張った肩を休ませてあげたい」と、ユニホームを脱いだ。

 戦力外を告げられた日は、今も鮮明に覚えている。2020年に育成から支配下に復帰し、1260日ぶりの1軍登板も果たした。ファームではチーム唯一の規定投球回をクリアし、勝率.667でウエスタン最高勝率のタイトルも獲得。復活への一歩を踏み出した左腕は「来年が勝負」と、並々ならぬ決意でオフシーズンを過ごそうとしていた。

 同年11月。鳴尾浜での練習を終えると、球団フロントに呼び止められ封筒を手渡された。「始めはファームでタイトルを取っていたので、(球団の)年間最優秀選手賞の何かかな」と、意に介さず車に乗り込んだ。だが、車内で封筒を開けると一通の手紙が入っていた。

「明日、ホテルに来てください」

 これまで球団を去っていく仲間を見てきた横山氏は全てを察した。「このタイミングでトレードはない。僕の中では支配下に復帰して、来年は何かを大胆に変えて勝負と思っていたので。その時は頭が真っ白になりました」。覚悟を決めていたが翌朝、指定されたホテルに向かう前に現実を知ることになった。

 その日の朝刊には大々的に記事が並び、球団フロントから伝えられる前に戦力外を知った。番記者たちの“仕事ぶり”に驚きを感じながらも「やっぱり本当だったんだ」と納得した。その後は現役続行も視野に入れ自主練習を行っていたが、全く気持ちの乗らない自分がいることに気づいた。

後輩で同じ左腕の高橋遥人に期待「復活した姿を見たい」

「最初の2、3日は鳴尾浜で練習していたんです。でも、肩も限界で熱も入らない。『俺、やり切ったわ』と思えたので、トライアウトも受けなかった。(支配下復帰した)最後の1年は休みっていう休みなく、肩のケアもして。肩のことに関しては、すべてやり切った。やることをやったので、そのことに関しては後悔はなかったです」

 現在はアパレル業に精を出し、休みの日には草野球で汗を流している。陰ながら古巣も応援しており、同じ左腕で支配下復帰を目指している7年目左腕・高橋遥人投手には、特別な思いがあるという。左肩手術、誰にも真似できないストレート、育成契約……。現役時代を共にしているだけに、共感できる部分は多い。

「境遇がほぼ同じで、その大変さは経験した本人しか分からない。引退した今でも気にかけて、見ていますね。僕は自分のボールが戻らなかった。でも、色々な人に聞くと彼は威力が戻ってきているみたいなので。僕のようにはならないでほしい。本当に凄いボールを投げるので、復活した姿を見たい」

 わずか6年間のプロ野球生活は「辛いことの方が多くて、いい思い出は数えるぐらいしかない」と振り返る。それでも、度重なる怪我を乗り越えて育成から支配下に復帰し、甲子園のマウンドで浴びた歓声を忘れることはない。「続けることの大切さは、身に染みて学んだ。この経験を生かしていきたい」。プロでの経験を糧にし、第2の人生を歩んでいく。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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