「一歩間違えればパワハラ案件」でも… 早大・小宮山監督が称賛する3年生右腕の成長

慶大戦に先発した早大・伊藤樹【写真:加治屋友輝】
慶大戦に先発した早大・伊藤樹【写真:加治屋友輝】

今季から背番号11を付ける伊藤樹「優勝するまでが仕事」

 元プロの監督が伝えたのは“昭和魂”だった。早大は1日、東京六大学野球春季リーグの慶大1回戦に8-1で先勝。慶大にあと1勝して勝ち点を5に伸ばせば、2020年秋以来7季ぶりの優勝が決まる。今季から早大のエースナンバー「11」を背負う伊藤樹(たつき)投手(3年)が8回3安打1失点の快投を演じ、小宮山悟監督は「11番を渡してよかった」と目を細めた。

 3万人の観衆が詰めかけた伝統の早慶戦で、伊藤樹は慶大打線を寄せつけなかった。唯一のピンチは、1点リードの3回。2死二塁で、昨夏の甲子園で107年ぶりの全国制覇を達成した神奈川・慶応高の主力だった丸田湊斗外野手(1年)を打席に迎えた所だった。しかも5球目が暴投となり、走者は三塁に進む。

 ストレートとスプリットで攻めていた伊藤樹は、フルカウントからの8球目に初めて112キロのカーブを投じ、丸田を見送り三振に斬って取った。「相手打者の頭にない球種だったと思います。投げ切る自信もありました」としてやったりだ。丸田がスプリットに対応しようと、投球動作が始まってから打席内で投手方向に動くのを看破した上での、実にクレバーな配球だった。

 加藤孝太郎投手(現JFE東日本)から「11」を引き継いだ伊藤樹は今季、7試合に登板し3勝0敗、防御率1.50(1日現在)。小宮山監督は2日の慶大2回戦では伊藤樹をブルペン待機させ、リードすればマウンドに上げ、“胴上げ投手”の栄誉に浴させる意向だ。伊藤樹自身は「優勝するまでがエースの役割だと思っています。もし明日(2日)負けたとしても、3回戦にしっかり投げて優勝できればと思います」と状況を俯瞰している。

将来のプロ入り描く「俺の大学時代の成績は全て渡してある」

 宮城・仙台育英高時代に甲子園で活躍し、昨秋もリーグ戦初勝利を含め4勝(1敗)を挙げた伊藤樹だが、今季はエースとして“一皮むけた”大事な試合があった。4月29日の明大3回戦である。前々日の同1回戦でも、7回119球(4失点)を投じていたが、中1日で先発すると、延長11回を147球で完封。昨春まで3連覇していた難敵・明大から、勝ち点をもぎ取ったのだった。

 小宮山監督は「一歩間違えればパワハラ案件になりかねませんが、延長10回を投げ終わり、投球数が133となった時に本人に意思確認したところ『行く』とのことでしたので」とおどけつつ、「よく頑張ったと思います」と称えた。そして昭和40年(1965年)生まれの指揮官は伊藤樹の姿を「“昭和の香り”が出てきた。これをなんとか大事に育てたい」と表現した。

 今、小宮山監督は改めて“伊藤樹の147球”を「あいつの野球人生のターニングポイントになったのではないか」と振り返る。伊藤樹自身も「ああいう試合を投げ切るために練習してきましたし、自信になりました」と風格を漂わせている。

 また、早大4年時には主将でエース、プロ入り後にNPB通算117勝を挙げた小宮山監督は、早大入学当時から将来のプロ入りを思い描いている伊藤樹に対し「俺が大学時代にどれほどの成績を残してからプロへ行ったか、全ての数字を渡してあります」とも明かしている。秘蔵っ子は3年生。今季の優勝に止まらず、どこまで大きく成長するのか、まだまだ計り知れない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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