エラーに寛容、機会均等…“野球好き”を増やす心得「思う以上に子どもはどん欲」

「SUNYON BASEBALL」で指導する篠原真弥さん(左)【写真:石川加奈子】
「SUNYON BASEBALL」で指導する篠原真弥さん(左)【写真:石川加奈子】

北海道発の小学校中学年対象大会「SUNYON BASEBALL」…監督の人材は多様

 北海道で誕生した小学3、4年生向けの野球大会「SUNYON BASEBALL」では、監督が選手に怒ることはない。勝敗よりも大事なミッションは、野球人口を増やすこと。基本技術の指導とともに心がけるのは、機会を平等に与え、チームが1つになるための声かけだ。

 この大会で監督を務める人材は、少年野球チームの監督から女子野球選手、元社会人野球選手、大学生と幅広い。それぞれのバックボーンは違っても、子どもたちに野球を好きになってもらいたいという思いは共通している。

 大会初年度の2022年から監督を務める篠原真弥さんは、女子軟式野球チーム札幌ブレイクの選手で、保育士の仕事の合間を縫って球場へ駆けつける。「1人でできるスポーツではないので、チームワークを大切にしています。エラーしても、空振りしてもいいから、思い切りプレーして、楽しんでほしいです」と温かい眼差しを注ぐ。

 この大会は、未経験者や初心者でも試合を楽しめるように独自ルールを設けており、1イニングに最低1回バッティングスタンドティーを使用しなければない(2回まで可能)。北海道内5ブロック36チームによるトーナメントを勝ち上がるには、得点機でのスタンドティー使用が効果的だが、まずは未経験者にスタンドティー使用を優先させるのが暗黙のルールになっている。

 大会を主催するNPO法人ドリームキッズチャレンジ代表理事の前川英紀さんが説明する。

「野球ができない子にやってもらい、1人でも野球をやる子を増やすための大会であることを監督に伝えています。みんなにチャンスを与え、初心者にはなるべくティーを使わせてくださいと。あとはチームが1つになるような声かけと、野球を楽しめるような指導をお願いしています。思う存分エラーをして、みんなで盛り上がって楽しもうという大会ですから」

「SUNYON BASEBALL」で試合に臨む子どもたち【写真:石川加奈子】
「SUNYON BASEBALL」で試合に臨む子どもたち【写真:石川加奈子】

礼儀やマナーも指導…新しい友達ができるのも「うれしいこと」

 投手は1イニング交代が基本。守備位置は、本人の希望を聞きながら、1試合で複数のポジションを経験してもらう。打者はベンチ入り選手全員が順番に打席に立つ。

 昨年から監督を務める、元航空自衛隊千歳の投手で野球スクールを運営する音羽伸洋さんは「全員出るシステムなので、野球をやっている子もやったことのない子も、1つのチームになって戦うことができます」と魅力を語る。「サインはほとんど出さず、自主性に任せています。大人が思う以上に子どもたちはどん欲で、こんなことができるんだと驚くこともありますよ」と成長のスピードに目を見張る。

 試合と野球教室がセットになっていることも、この大会の大きな特徴だ。試合前の1時間、アップを兼ねて監督が基本技術を教える。前川さんは「ただのウオームアップではつまらないし、3、4年生なので基礎を教えてもらいたいなと思って初年度からこの形を続けています。たまに、自分のチームとは違う監督から教えてもらうことも、勉強になると思うので」と説明する。

 この年代は、ちょっとした一言で一気に上達することも多い。篠原さんは「上手くなりたいと思って参加している子たちなので、コーチから言われたことを“わかりました!”と素直にすぐに実行します。聞けば聞くほど、上手くなっていきます」と目を細める。

 技術はもちろん、礼儀やマナーを学ぶ場にもなっている。試合前後の整列では、審判員やスタッフが並び方やあいさつの仕方を丁寧に指導。試合中のベンチでは、守備に就いていない選手がヘルメットをきれいに並べる姿が印象的だった。

 保護者の評判も上々だ。昨年次男がこの大会に参加し、今年は三男が参加している水尻大輔さんは「この年代で試合を経験できるのはありがたい。意欲があって、レベルの高い子が集まっているので、大きな刺激をもらっているようです」と話す。妻の翔子さんは「新しい友達を作ってくれることもうれしいことです」と、普段所属しているチームの枠を越えた交流にも魅力を感じている。

 主催者、監督、審判、保護者…関係者が思いを1つにして“選手ファースト”を貫くことで、子どもたちは伸び伸びとプレーしている。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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