「体重75キロ超えた?」 別々に移籍→決勝で再会…世代屈指の2大砲が求めた“熱量”

健闘を誓い合う濱谷隆太(右)と細谷直生【写真:フィールドフォース提供】
健闘を誓い合う濱谷隆太(右)と細谷直生【写真:フィールドフォース提供】

元バッテリーの小6が都決勝で対決…新天地でそれぞれ看板打者となり、全国へ

 偶然から必然の選択へ。小学生の学童野球の最先端では、チームと指導者が選ばれる時代に入ってきている。従来は、自宅近所のチームに入部するのが慣例で、これに疑問をもつ保護者もほぼいなかったと思われる。また現在でも、学区のシバリや移籍者のペナルティなどの不文律がまかり通る地域も少なくはない。

 一方、全国最多の1000チーム以上が加盟(全日本軟式野球連盟)する東京都では、選手の移籍が珍しくなくなってきている。現場で取材をしてみると、別のチームに移った理由はさまざま。少なくとも筆者は、いわゆる「モンスターペアレンツ」のような煙たい親子には会ったことがない。また首都圏では、新天地でバリバリと活躍する選手に出会うケースが増えている。

 そんな移籍組のエポックメーキングともいえる出来事が、今月16日にあった。「小学生の甲子園」こと全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以下、全日本学童)の東京都予選決勝。この頂上決戦で対峙した両チームの主砲が、実は4年生まで、別のチームでバッテリーを組んでいた幼なじみだったのだ。

 船橋フェニックス(世田谷区)の5番打者・濱谷隆太と、不動パイレーツ(目黒区)の3番打者・細谷直生。2人は小学校は別だが、1年生から4年生の秋までは23区内の地元のチームでプレーしていた。主に濱谷が投げて細谷が受けるバッテリーで、3年時は東京23区大会に、翌年は4年以下の東京王者を決めるマクドナルド・ジュニアチャンピオンシップに出場している。

 その後、濱谷が移籍し、細谷も5年生の冬に現在のチームへ。理由はほぼ同じで「全国大会に行きたいから」。もう少し深掘りして話を要約すると「全国大会を本気で目指していて、仲間と同じ熱量でがんばれるチームでやりたい」となる。

ミート力に長ける濱谷は4年冬に船橋フェニックスへ【写真:フィールドフォース提供】
ミート力に長ける濱谷は4年冬に船橋フェニックスへ【写真:フィールドフォース提供】

「サク越え5本!」念願の全国舞台で健闘も誓い合う

 船橋フェニックス(以降、船橋)はここ数年の躍進が目覚ましく、昨年はついに全日本学童に初出場した。2016年に同大会初出場した不動パイレーツ(以降、不動)は、2年ぶり4回目となった昨夏は銀メダルに輝いている。どちらも野球環境には恵まれないが、スタッフも指導者も人格者が多く、学年単位の活動をベースとしつつも、毎年の経験が組織にフィードバックされている。

 船橋は昨秋から無敗のまま、新人戦の東京大会と関東大会を制覇。濱谷は4番打者として多くの勝利に貢献してきた。一方の不動は新人戦は都大会3回戦で敗退も、細谷らが加わって迎えた2024年から上昇気流に乗っている。4月の東日本交流大会では、船橋が公式戦初黒星(4強)。不動は準優勝し、細谷は準決勝で2打席連続アーチ、決勝でも中越え二塁打など、圧倒的な存在感を示した。

「みんな能力が高くて優しい。自分もやりやすいし、受け入れてくれたので、チームのためにもがんばりたい」(細谷)

 さて、そんな2人が対峙した全日本学童都大会の決勝。結果は船橋が9-6で不動を破り、初優勝を飾った。左打ちの濱谷は、ライトへ痛烈な当たりのタイムリーを放って1打数1安打1打点(1四球)。右打ちの細谷は、右翼線へのタイムリー二塁打など3打数3安打1打点という活躍だった。

 1回表に細谷が内野安打で出た際には、一塁を守る濱谷と言葉を交わしていた。試合後に取材した限りでは、濱谷が「オマエ、体重75キロ超えたのか?」と尋ね、細谷は「ノーコメントです」と答えたという。

パンチ力に長ける細谷は5年冬に不動パイレーツへ【写真:フィールドフォース提供】
パンチ力に長ける細谷は5年冬に不動パイレーツへ【写真:フィールドフォース提供】

 そう、2人とも一目で判別できるほどの巨漢選手。並んでみると身長は濱谷が、体重は細谷が上回っている。ともに世代屈指の大砲だが、細谷が互いの優劣を冷静に語っている。

「体重は負けてない! それと飛ばす(打球の飛距離)のもオレじゃないですか。でもミート力がすごいのはリュウタ(濱谷)で、ぜんぜん三振しないし、どんな球でも意地でも当ててくる」

 これを伝え聞いた濱谷は、異論はないという顔をして別のことを口にした。

「ナオキ(細谷)は前のチームでバッテリーを組んだ友だちだから、こうやって決勝で戦えたことも、全国大会に一緒に出られることも、うれしいというか、良い思い出になると思います」

 全日本学童は47都道府県王者によるチャンピオンシップ大会だが、加盟数の多い東京は開催地枠も加えて計3枠ある。また8月の本大会は予選と異なり、70メートルの特設フェンスが全会場で設置される。

「サク越えを5本は打ちたいです」と細谷。これを伝え聞いた濱谷は「それならオレは10本いきます! あっ、でも力んじゃうから、やっぱりオレも5本で(笑)」

 両チームは現在、東京都知事杯フィールドフォーストーナメントにも参戦中。ともに順調に勝ち上がると、3回戦でまた相対することになる。

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中

(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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