なぜ坂本勇人は「振り抜けない」 消えた“天才的”な打撃…分析のプロが指摘した不振の原因

巨人・坂本勇人【写真:小林靖】
巨人・坂本勇人【写真:小林靖】

巨人スコアラー歴22年、坂本勇人を入団時から知る三井康浩氏

 出場選手登録を抹消された巨人・坂本勇人内野手が復調への鍵になるものは何か。巨人で22年、スコアラーとして従事し、坂本の打撃を入団当時から知る“分析のプロ”でもある三井康浩氏が、打撃不振の原因を探った。左肩の位置や踏み込みの足にあると見ているようだ。

 今季、打率.234と打撃の状態が上がらず、2軍調整を続ける35歳は復活できるのか。三井氏は「最近の坂本の打撃フォームを見ていると、左肩が下がり気味なのが気になります」。選手の変化にすぐに気づいて、数々の名打者に助言を送ってきたその目には一目瞭然だった。

 坂本の打撃フォームは若い頃から両肩が平行、または左肩が少し上がり気味で、コマのように回転するイメージ。「天才的といわれた内角打ちも、そのフォームによって発揮されたものです。今の構えだと、内角球に対してバットをうまく振り抜けないと思います」と良さが消えてしまっている。左足の踏み込みも「好調時に比べると、強く踏み込めていない」と地面に優しく足をついている印象があるという。

 フォームの乱れは、下半身からきている可能性が高い。「坂本は若い頃『Gパンが入らなくなるから』と、下半身を鍛えるのを避けているところがありました」。しかし、ある時期からウエートトレーニングを増やし、急に太ももが太くなるとともに、主軸打者として安定感を増していったことをよく覚えている。だからこそ、今、戦列を離れ、トレーニングを積むことに価値を見出している。

 かつては高橋由伸氏や阿部慎之助現監督の現役時代をずっと見てきたからこそわかる。「35歳は決して老け込む年ではない。トレーニングは量より質へ切り替えながらも、下半身を鍛え直してほしい」とエールも送る。

巨人でスコアラーを務めていた三井康浩氏【写真:中戸川知世】
巨人でスコアラーを務めていた三井康浩氏【写真:中戸川知世】

坂本勇人に1打席の代打の切り札は似合わない、真摯に向き合う坂本へエール

 年齢を重ねれば、“代打の切り札”に舵を切る選手もいる。しかし「坂本は1打席で結果を残すのではなく、試合の中で打席を重ねながら絞り球を決めていくタイプ。代打向きではないと思います。それにあれだけのスーパースターですから、1打席限りの坂本というのはファンにとっても違和感しかないでしょう」と三井氏は首を横に振った。

 また、遊撃から三塁へコンバートしたが、別のプランも復調の手掛かりを探る意味でも、もう一つの手を考えてもいいかもしれない。「負担の大きさを考えると、守備位置はやはり三塁、場合によってはファーストも“あり”だと思います」と持論を述べる。
 
 いずれにせよ、阿部慎之助監督が「8、9月に(坂本)いなきゃ、(チームが)終わる」と語っているように、混戦のペナントレースを抜け出していくために、不可欠な存在であることは間違いない。三井氏は「監督にとって頼みの綱だと思います。坂本がいればチームがびしっと締まりますし、負けが込み始めた時に歯止めにもなりますから」とうなずく。

「野球に関してはすごく前向きで真面目。ロッカーはいつもきれいに整頓されていて、バットやグラブの手入れも人一倍入念です。そういうところに象徴されるように、非常に繊細な神経の持ち主です」と三井氏が素顔を明かす坂本は今、35歳の自分の現状と真摯に向き合っている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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