断トツ数値残した天才打者…圧倒の17.94 現実味帯びてきたリーグ20年ぶりの偉業
6月に勢いを加速させた鷹…12球団トップの1試合平均4.78点
6月に最もチームに貢献した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標でパ・リーグの「月間MVP」を選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。
ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。
まずは、6月のパ・リーグ月間成績を振り返る。
〇ソフトバンク:17勝5敗1分
得点率4.78、打率.277、OPS.738、本塁打18
失点率2.73、先発防御率2.32、QS率65.2%、救援防御率3.16
〇楽天:12勝9敗1分
得点率3.41、打率.250、OPS.659、本塁打12
失点率3.31、先発防御率2.90、QS率59.1%、救援防御率2.89
〇オリックス:12勝11敗
得点率2.83、打率.241、OPS.628 本塁打10
失点率2.61、先発防御率2.17、QS率43.5%、救援防御率2.88
〇ロッテ:9勝12敗1分
得点率3.64、打率.247、OPS.647、本塁打10
失点率4.34、先発防御率3.55、QS率45.5%、救援防御率 4.48
〇日本ハム:6勝14敗3分
得点率3.09、打率.249、OPS.666、本塁打14
失点率3.78、先発防御率3.01、QS率56.5%、救援防御率 3.54
〇西武:6勝15敗1分
得点率1.68、打率.183、OPS.512、本塁打7
失点率3.31、先発防御率2.83、QS率45.5%、救援防御率 3.20
開幕から快進撃を続けるソフトバンクは、6月に勢いを加速させた感がある。1試合平均得点4.78は12球団トップで、先制率69.6%もダントツ。先制した際の勝率も93.8%と完勝状態だ。
無双の鷹モイネロ、交流戦優勝に貢献した楽天・早川
そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による6月の月間MVP選出を試みる。投手評価として、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用いる。上位ランキングは以下の通りだった。
〇早川隆久(楽天):RSAA5.71、登板3、23回、防御率0.78、WHIP0.78、奪三振率10.17、与四球率1.57、QS率100%、HQS率67%
〇モイネロ(ソフトバンク):RSAA5.35、登板4、27回、防御率0.67、WHIP1.11、奪三振率11.13、与四球率2.33、QS率100%、HQS率50%
〇種市篤暉(ロッテ):RSAA4.58、登板4、28回2/3、防御率1.88、WHIP0.98、奪三振率10.05、与四球率4.57、QS率100%、HQS率50%
〇エスピノーザ(オリックス):RSAA4.05、登板4、27回1/3、防御率1.65、WHIP0.95、奪三振率7.57、与四球率2.96
上記ランキングに掲載されていないチームのwRAA上位選手は以下の通り。
〇今井達也(西武):RSAA1.99、登板4、31回2/3、防御率1.99、WHIP1.04、奪三振率9.66、与四球率2.62、QS率100%、HQS率75%
〇伊藤大海(日本ハム):RSAA1.18、登板4、28回、防御率2.25、WHIP1.07、奪三振率8.68、与四球率1.61、QS率75%、HQS率50%
快進撃を続けるソフトバンク投手陣で出色の活躍を示しているのがリバン・モイネロだ。月間3勝、防御率0.67、奪三振率11.33は規定投球回以上の投手でリーグトップ。公式の月間MVPの最有力候補である。ただ、モイネロ以上に6月のパ・リーグで、RSAAの観点から最もチームに貢献した数値を残したのは25歳の早川隆久である。
勝ち星こそ1勝だったが、QS率100%、HQS率67%と、先発としての役割を十分に果たした。奪三振率10.17もさることながら、与四球率1.57はリーグの中でもトップクラスである。楽天の交流戦優勝、月間勝ち越しに大きく貢献した早川をセイバーメトリクス目線で選ぶ6月の月間MVPに推薦する。
断トツ数値が並ぶ鷹・近藤…視野に入った3冠王
打者評価としては、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。wRAAの上位ランキングは以下の通りとなった。
〇近藤健介(ソフトバンク):wRAA17.94、91打席、OPS1.290、打率.413、本塁打7
〇水谷瞬(日本ハム):wRAA8.91、91打席、OPS.945、打率.333、本塁打3
〇岡大海(ロッテ):wRAA7.92、83打席、OPS.975、打率.361、本塁打0
〇森友哉(オリックス):wRAA7.08、41打席、OPS1.158、打率.389、本塁打2
〇外崎修汰(西武):wRAA5.05、34打席、OPS1.071、打率.296、本塁打2
〇万波中正(日本ハム)wRAA5.04、100打席、OPS.841、打率.309、本塁打3
〇辰己涼介(楽天)wRAA4.68、93打席、OPS.800、打率.298、本塁打1
6月のソフトバンクの快進撃を打撃面で牽引したのは近藤健介である。月間打率 .413、本塁打7、打点23はすべて首位の「3冠」。出塁率 .516、長打率.773、OPS1.290もすべてダントツである。
シーズン記録でも打率、本塁打でリーグ1位、打点も山川穂高に次いで2位。出塁率の高いソフトバンク上位打線の後を打つ近藤にとっては打点を稼げる環境にあり、松中信彦以来のパ・リーグ打撃3冠も視野に入った。天性のバットコントールに加え、打球速度の上昇により長打力が兼ね備わった近藤を6月の月間MVPパ・リーグ打者部門に推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。