フォーム変えなきゃ「お前を使わん」 KO続きで最後通告…監督からの“強制命令”

元阪神・田村勤氏【写真:山口真司】
元阪神・田村勤氏【写真:山口真司】

田村勤氏は駒大で3勝…監督の勧めで社会人野球「本田技研」に進んだ

 運命を変えた社会人野球入りだった。元阪神、オリックス左腕の田村勤氏は静岡・島田高から駒沢大に進学したが、伸び悩み、結果を残せなかった。東都大学リーグでの通算成績は29登板で3勝3敗。そんななか、駒大・太田誠監督が卒業後の進路として本田技研入りを勧めてくれたという。これが結果的に田村氏の野球人生には大きなプラス。本田技研・田代克業監督と出会い、オーバースローからサイドスローに転向したのが転機になった。

 駒沢大での田村氏のリーグ戦初勝利は1986年の大学3年秋だった。「東京農大戦でした。相手のショートの天野は小学校からずっと一緒の幼なじみ。島田高でもショートだった同級生。お互いに神宮で闘えるという喜びとか感慨深いものもあったし、無様な姿を見せられないぞというのもあった。そういう思い出があります」。そんな中でつかんだ白星だった。

「(駒大監督の)太田さんはそんな僕らの関係を知っていたんですよ。天野は東農大で副キャプテンだったし、それなのに、お前は何だって感じでね」と田村氏は振り返る。「駒沢で同期の新井(富夫投手)は東都で30勝したんですよ。僕は3勝。10分の1ですよ。新井はコントロールがよかった。ホントに針の穴を通すというくらいのピッチャーだったんです。太田さんには新井とよく比較されました」。

 太田監督にしてみれば、田村氏への期待の裏返しのハッパがけではあったのだろう。「僕は変化球イップスになってから、ストレートまでもおかしくなり、ストライクが入らなくなっていましたからね」。だが、効果は出なかった。「だいぶ自信をなくしました。あの頃は野球に嫌気がさしていた部分とプロに行く夢を諦めずに何かできたらという思いと半々でした」。そして卒業後の進路に関しても考えなければいけない時期になった。プロからは声がかかるはずもない。

 そんな田村氏に太田監督が提案したのが本田技研行きだった。「監督が『お前な、新井と敵として投げ合ってみるのを考えたらどうや、やり合ったらどうや』って言ってくださったんです。新井は日本通運に行くことになっていて、そこと本田技研はライバルチームなんですよ。『あっ、そういうのもあるな』って思いました。それで行くことにしたんです。監督には感謝しています」。太田監督の言葉で、気持ちもグンと前向きになったそうだ。

社会人1年目の秋、半強制的に上手投げから横手投げに転向

「子どもの時に親父から『無理だと思うまでやれ!』って言われていたし、かすかな、ちょっとした光りでも残っていたら、やるしかないんですよ。だから、僕は社会人で当時、何歳の人がプロに入っているかと、いろいろ調べました。だいたい25から30までで、最終30歳まで挑戦しなければいけないなっていうのもありましたね」。つらく、苦しい大学時代を過ごしながらも、なえるどころか、またパワフルに動き出したわけだ。

「大学の時、(野球部の)集団脱走が起きて、その時4人だけ残っていたんですけど、僕はその1人でした。『お、お前、いるやないか』って言われましたもん。『よく逃げんかったな』って。一番最初にいなくなっていると思われていた人間が何で残っているのってぐらいのことも言われましたね」とも田村氏は明かす。幼少の頃から続く“簡単には諦めない精神”。それはいつの時代も同じだったし、大きな支えでもあったようだ。

「(本田技研の)田代監督も僕が社会人入りした背景を考えてくれていた。『お前は大学ではやらされた練習しかしていないだろうけど、社会人はな、思ったことをやったらいいんだよ』って言ってくれて、すごい寛大な監督さんやなって思った。『で、お前はどうしたいんや』って聞かれたので『いや、あの、あわよくばプロに行きたいと思っています』と言ったら『じゃあ頑張れよ』って。それが最初だったんですけどね」。だが、そんなやさしい世界ではなかった。

「社会人でも大学の時と一緒のことをやっていたので、やっぱりノックアウトを食らって……。(田代)監督はそれを見るに見かねて『横で投げろ』って。『横にしなかったら、お前を使わん』とまで言われたんです」。左の本格派を目指していただけに抵抗はあったが、やるしかなかった。結局はやらされた練習。社会人1年目の1988年秋、半強制的にオーバースローからサイドスローに転向となったのだ。

「そしたら、何となくボチボチ抑えるようになったんですよね……」。左横手から繰り出すストレートは、この先、田村氏の大きな武器になっていく。この時はまだまだ半信半疑での取り組みだったが、まさにこれが野球人生のターニングポイントだった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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