無双続ける中日21歳 許さぬ失点、歴史的快挙が現実味…衝撃の「0/32」

中日・高橋宏斗【写真:イワモトアキト】
中日・高橋宏斗【写真:イワモトアキト】

大型連勝の巨人が7月に貯金8…先制時の勝率は92%だった

 7月に最もチームに貢献した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標でセ・リーグの「月間MVP」を選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。

 ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。

 7月のセ・リーグ月間成績を振り返る。

○巨人:14勝6敗
得点率3.80、打率.252、OPS.674、本塁打13
失点率2.54、先発防御率2.55、QS率65.0%、救援防御率2.18

○阪神:14勝8敗
得点率3.95、打率.272、OPS.680、本塁打8
失点率2.61、先発防御率2.12、QS率81.8%、救援防御率2.67

○広島:9勝10敗
得点率2.53、打率.211、OPS.533、本塁打4
失点率3.18、先発防御率3.13、QS率73.7%、救援防御率2.13

○中日:9勝12敗
得点率2.57、打率.253、OPS.646、本塁打10
失点率3.22、先発防御率2.90、QS率57.1%、救援防御率2.84

○DeNA:9勝13敗
得点率3.32、打率.262、OPS.696、本塁打19
失点率3.65、先発防御率2.98、QS率40.9%、救援防御率3.33

○ヤクルト:7勝13敗
得点率3.20、打率.241、OPS.631、本塁打12
失点率4.13、先発防御率6.10、QS率30.0%、救援防御率2.08

 7月は巨人、阪神の2球団が飛び抜けた存在となった。特に巨人は7連勝、5連勝と大きく貯金を作ることに成功した。原動力は上位打線の活性化にあり、上位打線に回る確率の高い1、3、5回の得点確率が30%。いかに序盤で有利な状況を作り上げたかがわかる。防御率2.18の救援投手陣がリードを守り切り、先制時勝率は92%となっている。

 阪神は7月後半から形成された3番・森下翔太(2022年ドラフト1位)、4番・佐藤輝明(2020年同1位)、5番・大山悠輔(2016年同1位)の“ドラ1クリーンアップ”の活躍が目覚ましい。チーム本塁打8本はすべて3人から放たれた。7月21日から31日までの6試合すべてで3人が出塁し、うち4試合で3人とも打点を記録している。

際立ったDeNA野手陣…佐野、オースティン、牧、梶原が高数値

 そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による7月の月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用いる。セ・リーグ打者のwRAAランキングは以下の通り。

○佐野恵太(DeNA):wRAA8.65、93打席、OPS.950、打率.379、本塁打2

○タイラー・オースティン(DeNA):wRAA8.19、69打席、OPS1.064、打率.276、本塁打7

○大山悠輔(阪神):wRAA7.66、96打席、OPS.917、打率.300、本塁打4

○細川成也(中日):wRAA7.04、84打席、OPS.939、打率.315、本塁打4

○牧秀悟(DeNA):wRAA6.17、98打席、OPS.881、打率.283、本塁打6

○梶原昂希(DeNA):wRAA5.39、75打席、OPS.803、打率.361、本塁打0

○福永裕基(中日):wRAA5.36、82打席、OPS.859、打率.333、本塁打2

○大城卓三(巨人):wRAA4.95、77打席、OPS.784、打率.311、本塁打0

 上記のランキングに掲載されていないチームのwRAA上位の選手は以下の通りである。

○赤羽由紘(ヤクルト):wRAA4.56、23打席、OPS1.205、打率.400、本塁打2

○坂倉将吾(広島):wRAA2.59、52打席、OPS.822、打率.333、本塁打1

 wRAAのランキング上位にDeNA4選手が入った。その中でも最もチームに貢献したのが佐野である。月間打率.379、安打数33はリーグ1位。2本塁打は同僚のオースティン(7本)や牧(6本)と差はあるものの、二塁打9本はリーグ1位。その結果、長打率.552はオースティン(.672)、牧(.554)についでリーグ3位だった。

 得点圏打率.429は公式の月間MVP選考の際に大きく評価されることだろう。チャンスメーカーとしてだけでなくポイントゲッターとしての役割も十分に果たした佐野を、セイバー指標で選ぶ7月の月間MVPに推薦する。

圧倒的だった高橋宏斗…32回無失点、被安打は平均3.5本の無双

 投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用いる。上位ランキングは以下の通りだった。

○高橋宏斗(中日):RSAA10.72、登板4、イニング32、防御率0.00、WHIP0.59、奪三振率10.97、与四球率1.41、QS率100%、HQS率100%

○才木浩人(阪神):RSAA4.97、登板4、イニング28回1/3、防御率0.95、WHIP1.02、奪三振率7.94、与四球率3.18、QS率100%、HQS率75%

○大竹耕太郎(阪神):RSAA4.51、登板4、イニング25回2/3、防御率2.10、WHIP0.90、奪三振率4.21、与四球率0.70、QS率75%、HQS率50%

○桐敷拓馬(阪神):RSAA3.56、登板14、イニング11回2/3、防御率2.31、WHIP0.86、奪三振率10.03、与四球率2.31

○菅野智之(巨人):RSAA3.51、登板4、イニング25、防御率2.52、WHIP0.92、奪三振率7.92、与四球率0.36、QS率50%、HQS率25%

○平良拳太郎(DeNA):RSAA3.47、登板2、イニング16、防御率1.13、WHIP0.88、奪三振率6.75、与四球率0.56、QS率100%、HQS率100%

 上記ランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。

○エルビン・ロドリゲス(ヤクルト):RSAA3.15、登板7、イニング13回1/3、防御率0.68、WHIP0.90、奪三振率8.10 与四球率2.03

○床田寛樹(広島):RSAA2.30、登板4、イニング26、防御率2.08、WHIP1.35、奪三振率5.54、与四球率2.08、QS率 100%、HQS率50%

 阪神投手陣から3人が上位にランクインした。特に才木は5月12日のDeNA戦から11試合連続でQSをマークしている。る。そんな阪神勢を大きく上回る快投を見せたのが21歳の高橋宏だった。7月に登板した4試合は7回以上投げてすべて無失点。打たれたヒットも1試合平均3.5本と無双状態だった。

 ちなみに、開幕からの13試合中12試合でQS(QS率92.3%)、10試合でHQS(HQS率76.9%)を記録。シーズンWHIP0.83、防御率0.48は歴代記録に匹敵するハイレベルの数値である。規定投球回に僅かに達していないものの、このままのペースでいけば歴史を塗りかえる大記録達成も現実味を帯びてきた。歴史的な快投でチームを牽引し続ける高橋宏をセイバー指標で選ぶ7月の月間MVPに推薦する。

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。

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