CPBLが16年ぶり6球団で開催…日本人“助っ人”の活躍も 中信兄弟は平野恵一監督
今季CPBLは16年ぶりに1軍6球団制
35年目のシーズンを迎えた台湾プロ野球(CPBL)。今季は台鋼ホークスの参入により16年ぶりに1軍6球団制が復活。さらにはファン待望の室内球場「台北ドーム」の運用と、新時代の幕開けとなった。
台北ドームは文字通りのフィーバーとなっている。本拠地として使用する球団はなく、チケットは割高ながら、各球団はミニコンサートなどイベントを併せて開催。新たなファン層を取り込み、観客数トップ20のうち19試合を占めている。
また、ピッチクロックや延長タイブレーク制の導入も、試合時間短縮の面で効果が出ており、ここまで引き分けはゼロ。前期180試合の平均試合時間は3時間8分と、3時間22分だった昨季(300試合)に比べ14分短くなった。
オールスターゲームまでの前期180試合と後期30試合、計210試合の1試合平均観客数は7296人。過去3位だった昨年2023年の6000人から21.6%増え、過去35年で最多となっており、初の年間平均7000人台も視野に入った。
7月20、21日に行われたオールスターゲームは、初の台北ドーム開催に加え、選手のみならずチアリーダーも豪華な顔ぶれとなったこと。初日の20日はリーグの観客動員記録を更新する3万3688人、2日間でオールスター史上最多の計6万2354人を集める大盛況となった。
アトラクションや試合では、スター選手が期待通りの活躍をみせたうえ、21日の第2戦では、9回2死から両チームのコーチを務めるレジェンドたちがファンの求めに応じて「出場」、王建民対陳金鋒の「夢の対決」が実現するなど、予想外の展開にファンは歓喜、過去最高の盛り上がりとなった。
新たなステージに進んだといえる今季のCPBL。6月28日に開催されたドラフト会議を経て、元メジャーの張育成、元NPBの呉念庭、張奕ら、台湾代表クラスの元海外組の大物が加入。早くも後期シーズンの目玉となっている。
統一は、史上最速タイの26戦20勝というロケットスタート
前後期60試合ずつ行われるCPBL。6月25日、前期シーズンの優勝マジックを2としていた統一セブンイレブンライオンズは、本拠地、南部・台南市の台南球場に3.5ゲーム差で追う2位、楽天モンキーズを迎えた。
雨天サスペンデッドとなった5月28日の試合の「継続試合」として、0-0の2回裏から再開された。このゲームには、平日ながら今季台南球場では2番目に多い9165人のファンがつめかけた。楽天は鈴木駿輔が、統一はかつてヤクルトでもプレーしたローガン・オンドルセクが登板した。
統一は2-2で迎えた5回、2死二塁から4連打で3点を奪い、鈴木をKOすると押し出し死球と2点タイムリーでさらに3点追加、一挙6点を奪い、8-2として試合を決めた。
統一は10-2の7回から、本来先発のブロック・ダイクソンを「中3日」で投入。さらに11-4で迎えた最終回には抑えの陳韻文をつぎ込む慎重なリレーをみせる。そして、2死一塁から、楽天の4番、廖健富の力ないフライをライトの林佳緯がほぼ定位置でキャッチすると、その瞬間、チームカラーのオレンジの紙テープが一斉に投げ込まれ、マウンド上で両手を上げた陳韻文にナインが駆け寄った。
統一は、史上最速タイの26戦20勝というロケットスタートをみせた。その後、足踏みはしたものの、5月31日には史上最速でマジックナンバー15が点灯。44試合消化時点の6月6日には、優勝確実といわれる30勝一番乗りを果たし、マジックナンバーも11とした。
しかしその後、投打ともに不振に陥り、6月9日から20日まで8試合で1勝7敗と失速する。ともに今季から日本人監督が率いる楽天と中信兄弟が猛追。3.5ゲーム差まで詰め寄り「もしや」という展開となったが、ここで先発の軸、ダイクソン、古林睿煬、マリオ・サンチェスがいずれも好投をみせ3連勝、マジックを自力で2まで減らすと、前期58試合目、2位楽天との直接対決を制し、昨年前期以来、通算17度目となる半期優勝を果たした。
前期のロケットスタートを支えたのは、『アイアンマン』のラスボス、サノスにかけ「薩諾獅(サーヌオシー)」と呼ばれた強力打線だ。WBC代表、キャプテンの陳傑憲がリーグトップの打率.348をマークしチームを牽引した。
古久保健二監督率いる楽天は33勝27敗の貯金6で2位
昨シーズン後期にブレークし、アジアプロ野球チャンピオンシップ(APBC)の台湾代表にも選ばれた邱智呈も、リーグ最多の77安打を放ちスタメンに定着。左の大砲、林安可は波こそあったが、リーグ2位タイの12本塁打、リーグトップの57打点と主砲らしい活躍をみせた。また、41歳のチェン・ヨンジーも規定打席未満ながらOPS.901と気を吐いたほか、若手や脇役たちも奮闘し、離脱した主力の穴を懸命に埋めた。
投手では、昨季も前期優勝に貢献したサンチェスが9勝(1敗)、防御率1.67と抜群の安定感をみせたほか、APBC日本戦の好投で、大きな注目を集めた剛腕、古林睿煬も5勝(1敗)、防御率1.99と活躍した。なお、林岳平監督が「一番のサプライズ」と貢献を讃えたのがヘクター・ペレスだ。ペレスは開幕から6月上旬に離脱するまで、チーム48試合中21試合に登板、36イニングを投げ、2勝4ホールド、防御率1.50と奮闘し、不安定なブルペンを支えた。
統一は昨季、前期優勝も、後期に失速、悪い流れのまま年間1位を逃すと、プレーオフでも楽天に敗れ台湾シリーズ進出を逃した。今季は後期も気を引き締めて戦っていくことだろう。
今季から内部昇格で日本人監督が率いることなった2チーム、そして第6の球団、台鋼ホークスの前期の戦いぶりも振り返る。古久保健二監督率いる楽天は33勝27敗の貯金6で統一に4ゲーム差の2位。平野恵一監督率いる中信兄弟は32勝28敗の貯金4。5ゲーム差の3位と、いずれもAクラスに入った。
楽天は本拠地、桃園楽天球場のグラウンド改修工事が遅れ、1か月弱、ホームゲームを他球場で行っていた。さらにチーム内でインフルエンザが蔓延。主力の林立が、イレギュラーバウンドを頭に受け脳震盪で離脱と、開幕直後は苦しい状況が続いた。しかし、5月末まで勝率5割前後でしのぐと、林立の復帰に加え、昨年の首位打者、梁家榮が復調、打撃が上向き勝ち星を伸ばした。
前期2位の最大の立役者はリリーフ陣だった。開幕時は守護神が不在だったが、FA移籍の陳俊秀の人的補償で中信兄弟から入団した陳柏豪がクローザーに抜擢されると、前期リーグトップの20セーブをあげる活躍。川岸強コーチの秘蔵っ子、王志?、元NPBの陳冠宇も「勝ちパターン」として奮闘し、僅差のゲームをしっかり拾った。チーム総得点はリーグ最下位、得失点差は-47。OPS、防御率はいずれもリーグ平均以下というなかでの健闘に「阿公(おじいちゃん)」こと、古久保監督の手腕を評価する声が出ている。
一方、中信兄弟は、リーグ最多の四死球を選び、本塁打数もリーグ1位。統一に次ぐOPSを記録した。主な野手では、楽天からFA入団した主砲、陳俊秀が期待通りのパフォーマンスをみせたほか、右の強打者、曾頌恩がブレーク。去年は絶不調に苦しんだ陳子豪も、6月に月間MVPに輝く大活躍をみせ、前期2位タイの12本塁打をマークした。一方の投手陣は、外国人先発陣はまずまずの安定感をみせたものの、台湾人投手に怪我人が相次ぎ、ブルペン陣の防御率はリーグ最下位タイと苦しんだ。自慢の守備は、開幕直後こそミスが目立ったが、結果的にはリーグトップの守備率で前期を終えた。
「魔鷹」ことスティーブン・モヤがリーグ4位の打率.329
中信兄弟はリーグ1の人気チーム。熱狂的なファンが多く、采配や作戦、選手の起用や昇降格について論議を呼ぶことが多い。特にバントなど戦術の多用は批判を浴びることもあるが、平野監督は時にメディアを通じ、その意図を説明している。台湾プロ野球のさらなる発展、台湾社会における野球の地位向上を願い、苦言を呈することもあるが、選手たちへの愛の深さは、言葉の端々から感じられる。
CPBLは、前期と後期で異なるチームが優勝した場合には、年間勝率1位の半期優勝チームが直接台湾シリーズに進出、勝率で劣った半期優勝チームと、年間勝率3位チームがプレーオフを戦うレギュレーションとなっている。古久保、平野両監督共に後期優勝はもちろん、統一の年間勝率超えも目指している。
1軍初年度となった第6の球団、台鋼ホークスは23勝37敗の借金14、首位統一から14ゲーム差の最下位に終わった。開幕6試合は4勝2敗と好調なスタートも、その後は14試合でわずか1勝と苦しみ、一時は勝率.240と低迷。しかし、江承諺、小野寺賢人、ニック・マーゲビチウスらの先発陣に加え、野手陣では「魔鷹」ことスティーブン・モヤが、打率.329(リーグ4位)、15本塁打(同1位)、46打点(2位)と爆発。元北海道日本ハムの王柏融も6月に本領発揮、不振時も粘り強く四球を選び、主軸の働きを果たしたほか、球団最初のドラフト指名選手、20歳のショート曾子祐らの活躍もあり、一時は勝率を4割に乗せた。最終的な前期勝率.383は、第5の球団、味全ドラゴンズが2021年に一軍再参入した際の.379をわずかに上回った。
課題とみられた打撃はリーグ3位のOPSと健闘。盗塁もリーグトップの42個マークした一方、投手陣は選手層が薄さが露呈、特にブルペンが不安定で、接戦で競り負けるケースが目立った。また、失策数はリーグ最少の中信兄弟の2倍近い71とワースト。守備も課題といえる。
ただ、初年度という事もありファンの目は温かい。選手たちの奮闘に加え、興行面やSNS運用においても様々な仕掛けを行い、高雄っ子の心をつかんでおり、初年度にしてリーグ平均に近い7000人弱の観客を集め、今季の盛り上がりに大きく貢献している。
今季の開幕時、台鋼は元中日、DeNAの笠原祥太郎と、元BCリーグ埼玉武蔵の小野寺賢人、楽天は元BCリーグ信濃の鈴木駿輔と、3人の日本人投手が支配下登録された。
台鋼の笠原は4月5日、記念すべき新チームの本拠開幕戦、富邦戦で先発に起用され、6回無失点と好投。幸先の良いスタートを切った。しかし、3試合目の先発後、肩の違和感を訴え2軍降格、約1か月の休養を経て2軍戦登板も、調子が上向かなかったなか、球団はスタンバイしていたブレイディン・ヘーゲンズとの入れ替えのため、やむなく解雇の決断を下した。
オイシックス新潟の吉田一将が台鋼ホークスに入団
一方、昨年のアジアウインターリーグに「テスト外国人」として参加、台鋼を優勝に導く活躍で今季の契約を勝ち取った小野寺は、初登板となった4月4日の中信兄弟戦こそ5回途中でKOされたが、そこから持ち前の制球力、緩急を活かした丁寧な投球で、6試合連続でQSの好投を見せた。
打線とのめぐり合わせが悪く3連敗となったが、5月11日の味全戦、7回無失点の好投で初勝利をあげると、5月18日には強力打線の統一を封じ連勝。活躍と共に、マイペースでユニークな性格も広く知られ人気も上昇。個人グッズも販売された。しかし、6月9日の登板後、疲労により2軍落ち。右肘の違和感を検査した結果「肘内側側副靭帯」の損傷が判明した。
劉東洋GMは「PRP注射による治療を行い、10月にも実戦復帰予定」と説明。今季公式戦の出場は絶望的となったが、なおも来年の戦力と考えているとして契約延長を示唆した。小野寺はこうした球団の温情に感謝、SNSに「リリースされてもおかしくないなか、リハビリをさせてくれる球団に感謝し、なんとか怪我を治して成長して台湾プロ野球1軍のマウンドに戻れるように頑張ります」と記し、再起を誓った。
なお、台鋼は横田久則投手コーチが7月中旬、新外国人候補視察のため訪日。日本人投手2人と交渉中で、うち1人は8月31日の最終登録期限前に入団する可能性があると報じられた。球団は8月1日、オイシックス新潟の吉田一将と契約合意に達したことを発表した。吉田は、オリックス時代の同僚、モヤと再びチームメートとなった。
楽天の鈴木駿輔は4月4日、日本人投手では1番乗りで勝ち投手となり、古久保監督に就任初勝利をプレゼントしたが、5月初旬に2軍降格。その期間、BCリーグ時代のライバル小野寺やチームの勝ち頭、マルセロ・マルティネスを参考にしたという鈴木は、再昇格した6月11日の中信戦で、自慢の直球だけに頼らず、変化球の制球も意識した丁寧な投球を心がけ、7回途中1失点の好投。3勝目をあげ、初のお立ち台ではリクエストに応え美声も披露した。
しかし、6月25日、統一が優勝に王手をかけた継続試合では4イニング目につかまり目の前の胴上げを許すと、2軍でアピールし1軍に再昇格した7月18日の味全戦は7回4失点。27日の中信兄弟戦も6回途中2失点。制球に苦しみつつ懸命に試合はつくるも、勝利には貢献はできず。7月28日に2軍降格となった。目下の契約は7月末までという報道もあり、8月31日の最終登録期限を前に、球団がどのような判断をするのか気になるところだ。
(情報は7月31日現在のもの。8月1日一部加筆)
(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)