“木製バット1号”の意義「金属より飛ぶ」 低反発金属導入も…強豪校4番が見せた可能性
今大会第4号、木製では初「力を少し抜いて打席に入った」
時代の区切りを思わせる1発だ。第106回全国高校野球選手権大会は13日、甲子園球場で2回戦4試合が行われ、智弁和歌山の花田悠月内野手(3年)が霞ヶ浦(茨城)戦に「4番・三塁」でフル出場。8回に木製バットで大会第4号となる同点ソロを放った。試合には延長11回タイブレークの末4-5で敗れたが、1974年に経費節減などの目的で金属バットが導入されてから51年目で、高校生が甲子園で木製バットを使って本塁打を放ったのは極めて異例だ。
0-3とリードされて迎えた8回。智弁和歌山は2死走者なしから敵失で一塁に走者を出すと、試合途中から3番に入っていた高桑京士郎外野手(3年)が金属バットで左翼席へ、大会第3号の2ランを運び、一気に球場全体のムードを変えた。
その興奮がまだ冷めない中、続いて右打席に入った4番の花田が、真ん中に来た初球のストレートを強振。愛用の木製バットが乾いた快音を発し、打球は右翼から左翼へ吹く甲子園特有の“浜風”にも乗って、左翼フェンスを越えた。高校野球の甲子園大会で久しぶりに見る木製バットでの1発は、起死回生の同点弾となった。
それでもチームは勝ち切れなかった。花田は試合後「(試合序盤から)ホームランは頭にあって、その気持ちだけが前に出て3打席凡退していました。あの打席は周りの選手からの声かけもあって、力を少し抜いて打席に入れたことが、結果につながったのだと思います」と淡々と振り返った。
今年から金属バットに低反発の新基準が設けられた影響は明らかで、今春の選抜大会で記録された本塁打はわずか3本(うち1本はランニングホームラン)。それならば、と木製バットを試した選手がいる。今大会でも、早実(西東京)の宇野真仁朗内野手(3年)が木製バットで左翼フェンス直撃の二塁打を含む5打数3安打3打点と活躍。優勝候補の青森山田でも、3番の対馬陸翔外野手(3年)と5番の吉川勇大内野手(3年)が木製バットを使っている。木で外野フェンスを越したのは大会第7日、通算24試合目で初めてだ。
「大学に進学して、もっともっと野球を突き詰めたい」
花田は和歌山大会でも木製バットを使い、本塁打こそ出なかったものの、5試合で打率.353、7打点と活躍した。「最初はなかなかうまく扱えなかったのですが、扱えるようになってからは、低反発の金属より飛距離が出るというのが僕の感覚です。芯でとらえる技術が、最初の頃よりは上がってきたと思います」と説明する。
その長打力にプロのスカウトも注目しているが「まだまだ足りないところだらけなので、大学に進学して、もっともっと野球を突き詰めていきたいと思います」と明言した。プロにせよ、大学にせよ、同学年の大多数の選手たちより1年早く木製バットを使いこなしたことはアドバンテージになりそうだ。
高校指導者の間には「(1991年限りで)甲子園の外野からラッキーゾーンが撤去された当初は、『高校生で本塁打を打てる選手はいなくなるのではないか』と言われたが、結局、選手たちは置かれた環境に順応し、技術を上げていく。低反発バットや木製バットも同じで、遠からず高校生が本塁打を量産する時代が来る」と予測する声もある。
また、木製バットは金属と比べると、管理の面でも難しい。湿気をはらめば重量が増え、打撃の感覚を狂わせることにつながる。「そこは僕自身の管理で、天日干ししたり、乾燥剤と一緒に保存したりしています」と花田。木製バットの使用は、用具に対する知識と気遣いを増し、野球人として深みを加えるきっかけになるかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)