高校3年間出番なし 最後の夏は太鼓係…湧き出た“欲求”「バッター相手に投げたい」

リーグ戦1位を決め歓喜する豊川・福田健斗(中央)【写真:石川加奈子】
リーグ戦1位を決め歓喜する豊川・福田健斗(中央)【写真:石川加奈子】

甲子園逃した高3球児対象「リーガサマーキャンプ」で“野球愛”示した選手たち

 甲子園から1100キロ離れた北海道で、高校3年生の熱いドラマが繰り広げられている。栗山町民球場で初開催された「リーガサマーキャンプ2024 in 北海道」には、今夏甲子園に出場できなかった球児52人が集結して、4チームに分かれてリーグ戦を実施。これまで出番のなかった選手たちが輝きを放った。

「リーガサマーキャンプ」は、甲子園出場を逃した高校3年生を対象とした個人参加型のリーグ戦。プロや大学・社会人野球へアピールしたい選手や、3年間で不完全燃焼だった選手など、さらに実戦経験を積みたい球児たちが集い、今月9日にスタートしたリーグ戦で熱き戦いを繰り広げた。17日午後にはエスコンフィールド北海道で、最終戦の決勝が行われる。

 4チームの1つ、AGUILAS(アギラス)が5勝1敗でリーグ1位を決めた瞬間、マウンドに立っていたのは、愛知・豊川の福田健斗投手だ。最後の打者を三振に仕留めると、ジャンプして喜びを爆発させた。17日の決勝進出決定とあって、笑顔で駆け寄るチームメートの真ん中で誇らしげにNo.1ポーズ。「バッターに投げるのは楽しいし、気持ちも前に出てくる」と充実感をにじませた。

 今春の選抜出場はアルプススタンドで応援し、最後の夏は太鼓係だった。腰を痛めたこともあり、春夏秋の主要大会でベンチ入りは一度も果たせなかった。体の使い方を指導するジムに通って制球難を克服し、最後の夏に懸けたが、投手27人中ベンチ入りは5人という狭き門を勝ち抜くことはできなかった。打者3人と対戦して2四球1死球で降板した1年秋の全三河大会、代打で二ゴロに終わった1年生大会が3年間の公式戦の全てだ。

 このサマーキャンプのことをSNSで知ると「ずっとブルペンでばかり投げていた。バッターに投げて抑えたい」という欲求が日に日に大きくなっていった。両親と祖父母が背中を押してくれ、参加が実現した。

マウンドで力投する福田【写真:石川加奈子】
マウンドで力投する福田【写真:石川加奈子】

「高校では結果が出なくて、親にも指導者にも申し訳なかった」

 リーグ戦方式は性に合っていた。野球部では結果を求めるあまり、プレッシャーで体が硬くなり、結果が出ないという悪循環に苦しんだ。毎日試合のあるリーグ戦では「プレッシャーもあるけれど、失敗しても、次に生かせるので思い切ってできる」と、福田は伸び伸びとプレーし日々成長を実感できた。

 リリーフで4試合4回2/3に登板して9失点(自責3)。課題が見つかっても、とにかく打者との対戦が楽しい。14日の試合では1点リードの最終回に登板し、最後は相手4番打者を併殺打に打ち取った。武器であるスライダーを左打者の足元に投げ込むことが苦手だったが、1位を決めた試合の最後の打者からは理想通りの球筋で空振り三振を奪った。「自信になった」と成功体験を重ねながら、打者と対戦して初めて知る感覚、悔しさ、喜びを存分に味わっている。

 17日の決勝には、家族が観戦に訪れる。「高校では結果が出なくて、親にも指導者にも申し訳なかった。エスコンで投げている姿を家族に見せられて、うれしい」と楽しみにしている。卒業後も大好きな野球を続ける考えで、国立大学一般受験のため、このキャンプが終われば、勉強にも本腰を入れる。

4割近い打率で活躍した日体大附属高等支援学校・工藤琉人【写真:石川加奈子】
4割近い打率で活躍した日体大附属高等支援学校・工藤琉人【写真:石川加奈子】

野球部創設実現できず1人で素振り…夢叶えた「3年ぶりの実戦」

 北海道網走市にある日本体育大学附属高等支援学校の工藤琉人外野手は、3年ぶりの試合を満喫している。「硬式も木のバットも初めてだったので最初は不安があったけれど、思ったよりも難しくなかった。縫い目が赤いので軟式よりも硬式のボールの方が見やすい」とすぐに適応。リーグ戦5試合に出場して、13打数5安打5打点、打率.385と快音を響かせた。

 小2から野球を始め、厚岸中野球部では俊足強打で活躍し、釧路選抜のメンバーにも選ばれた。高校でも野球を続けることを熱望したものの、軽度の知的障害があることで、硬式野球部のある高校への進学を断念。

 日体大附属高等支援学校では陸上部に所属しながらも、野球への未練を断ち切れず、野球部創部を訴えたが、実現しなかった。それでも「野球が命と言っていいくらい好き」と網走の寮にバットを持ち込み、1人で素振りなどを行ってきた。

 知的障害がある球児たちをサポートする「甲子園夢プロジェクト」の練習会には10回ほど参加し、夏の釧根支部予選開会式では3年連続始球式を務めた。始球式で全力投球したボールは1年時126キロ、2年時132キロ、3年時140キロを計測したという。母・香織さんは「野球ができないことがストレス。3年間我慢したので、存分に楽しんで」と、このサマーキャンプ参加を勧めた。

笑顔で3年ぶりの実戦を楽しむ工藤【写真:石川加奈子】
笑顔で3年ぶりの実戦を楽しむ工藤【写真:石川加奈子】

 抜群の身体能力の持ち主で、陸上ではやり投げ、砲丸投げ、円盤投げでインターハイ予選の全道大会に出場し、決勝まで残った。10月には佐賀県で行われる全国障害者スポーツ大会のハンドボール投げと50メートル走に出場する。ソフトボール投げの自己ベスト97メートル67は日本記録だという。「全国大会では100メートルを目指したい。陸上はその大会が最後」と笑う。

 進路について、独立リーグに挑戦するか、就職するか悩んでいる。「このリーグで、高校野球をやっていた人とプレーしてみて、結果が出たら、独立リーグのテストを受けたいと考えていた。今は独立リーグの気持ちの方が大きい」と、今リーグを試金石ととらえて奮闘。香織さんら家族が応援に駆けつけた15日の試合で、最終回に代打で左翼線二塁打を放った。兄の啓斗さんは「楽しそうに笑っている姿を見られて良かった」と微笑んだ。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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