「運動神経は生まれつき」は本当か 低学年で知らないと損…寿命を延ばす“毎日10回”
プロ球団ジュニアも注目…元楽天・土屋朋弘氏が語る「コーディネーション」の重要性
子どもの将来的な競技力アップや、運動習慣継続に大きく関わる“能力”がある。自分のイメージ通りに体を動かせる「コーディネーション」。“逸材小学生”が集う巨人ジュニアの選考会でも取り入れられている、「脳神経」や「運動神経」の発達に関わるものだ。そして、その能力はどんな子でも伸ばせるし、トレーニングに取り組む時期が早ければ早いほど、効果が高く“寿命”も延びる。元楽天投手で、キッズコーディネーショントレーナーとして活動する土屋朋弘さんは、「野球の技術向上のためにも絶対必要なもの」と力説する。
楽天で投手としてプレーした土屋さんは、現役引退後、打撃投手を務めながら独学でトレーナーの勉強をし、資格を取得。その過程でドイツ発祥の「コーディネーショントレーニング」と出合い、2021年に子どもたちの運動能力を伸ばす「土屋教室」を仙台市内でスタートさせた。中でも重点的に指導しているのは、5歳~8歳の未就学児から小学校低学年だという。
この年代は「プレ・ゴールデンエイジ」と呼ばれ、前述の神経系が最も発達する時期でもある。土屋さんがそこを重視するのには、野球に限らず、子どもたちの将来を見据えた思いがある。
「運動を好きになってもらうには、早い段階で神経系を伸ばすことが大切です。高校・大学で競技をやめたとしても、体を動かすことが好きならば、その後の働き世代になっても運動を継続してもらえる。それが、運動不足による腰痛や、うつ病などのメンタルヘルスへの影響を軽減し、ひいては健康寿命を延ばすことにつながります。そこから逆算しての、この年代へのコーディネーショントレなんです」
子どもの外遊びの機会が減り、体力低下が叫ばれて久しい。さらにはコロナ禍での自粛生活もあった。実際に未就学児を現場で見ていると、運動不足がもたらす影響を実感するという。
例えば、裸足で歩く機会が減っている影響で、速く走ることや、打撃や投球で地面反力を得るのに重要な「母指球」(足裏の親指の付け根付近)の使い方がわからない子が多いと感じる。また、しゃがむ動作や木登りなどをする機会がないために、投打の体重移動に必要な「股関節に体重を乗せる」感覚や、足首の柔軟性に欠けている子も増えているという。
親が将来の可能性を狭めないために…“子どもが選べる”環境を作るのが大切
コーディネーショントレーニングには、相手や物との距離・位置関係を正しく把握する「定位」、体の複数部位を同時にスムーズに動かす「連結」など7つの能力を鍛えるものがあり、メニューは様々ある。中でも基本中の基本として、「まず母指球を使って動けるようになってほしい」と土屋さんは語る。
例えば、両腕を挙げて立ち、体の軸を作りながら、母指球を意識して行う連続ジャンプ。足裏全体をペタペタと使うのではなく、親指付け根付近を使ってリズム良く跳ぶのがポイントだ。「5回でも10回でもいいので、毎日継続すれば変わってきます」。母指球が使えるようになれば、走力アップはもちろん、野球でいえば、打撃でも投球でも地面を押し込む感覚が身に付くなど、すべての基本動作につながる。
最近でこそ徐々に「ゴールデンエイジ」などの言葉も浸透してきているが、いまだに「運動神経は生まれつき」「遺伝する」という誤解は根強い。だが、そもそも保護者が運動嫌いならば、子どもに体を動かす機会を与えない→運動神経は伸びないのは必然だ。「そのサイクルを抜け出さないと、子どもの可能性は伸ばせません。ペタペタと歩き方が下手だったのが、1年半の指導で足が速くなった幼稚園児もいます」。
親が子へ選択肢を与える大切さは、自身も実感してきたことだ。中学から高校進学時に、野球からバレーボールへの転身を考えていたが、親の反対で叶わなかった。「今では清原正吾くん(慶大)のように、他競技を経てプロ野球に近づいている選手もいる。僕も結果的にプロにはなれましたが、あの時バレーをやっていたら……という思いは正直あります」。
保護者の主観にとらわれることなく、さまざまなきっかけを与え、“子どもが選べる”環境を作ってほしい。そのためにも、まずは運動の基礎からだ。
「体の基礎があってこそ技術がついてくるし、基礎を作るには、神経系が伸びる小学校低学年までが重要です。コーディネーショントレに取り組むには、早ければ早い方がいいのは間違いありません」
自分の体を思うように動かせれば、運動が好きになり、野球が好きになり、将来的には“野球寿命”を延ばし、“健康寿命”を延ばすことにもつながる。より多くの人に「コーディネーション」の重要性に目を向けてもらいたいと、土屋さんは願っている。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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