ドラフト目玉・宗山塁も「うまく打ち取られた」 東大“渡辺俊介Jr.”、父譲りの投球術
長男・向輝投手「球速をあまり出さないようにしています」
元ロッテ投手で通算87勝の渡辺俊介氏(社会人野球・日本製鉄かずさマジック監督)の長男・向輝(こうき)投手は、東大3年。21日には東京六大学野球秋季リーグの明大1回戦に先発し、父譲りのアンダースローで8回4安打無失点の快投を演じた。打線の援護に恵まれず、救援投手も打たれて、リーグ戦初勝利こそ逃したが、父に負けない輝きを放ち始めた。
明大の強力打線を翻弄した。ストレートは110〜120キロ台だが、カットボール、スライダー、シンカー、カーブを駆使。渡辺は「目いっぱい投げれば130キロくらい出ますが、球速はあまり出さないようにしています」と笑う。ピッチングは球速を争うものではなく、いかに打者のタイミングを外すかの勝負だからだ。
6回には1死三塁のピンチを背負い、今秋ドラフト目玉といわれる明大・宗山塁内野手(4年)を打席に迎えた。痛烈なライナーに二塁手のグラブが弾かれたが、ボールを拾った一塁手がベースを踏んでアウトにし、三塁走者も釘付け。続く4番・杉崎成内野手(4年)にはカウント3-2から外角のスライダーを振らせ、三振に仕留めた。
宗山とは計3打席対戦し、2打数無安打1死球。宗山を「なかなか見たことのない軌道で、難しさがありました。バッテリーにうまく打ち取られました」と脱帽させた。
試合は0-0のまま、8回の東大の攻撃で先頭の渡辺に代打が送られた。9回の守りでは、2番手の平田康二郎投手(4年)が宗山に勝ち越しソロを浴びたのを機に、一挙10失点。終わってみれば0-10の大敗だった。渡辺は「9回まで投げられなくて、すごく悔しい思いをしました。自分が9回まで投げて、点を取って勝てるチームにしていきたいです」と唇をかんだが、自身の快投が色あせることはない。
進学校の海城高出身「自分のやり方でやってきました」
今春まではリリーフで10試合(14イニング)に登板。今季から満を持して先発に転向したが、前週の早大2回戦では2回7失点(自責点3)で敗戦投手となっていた。「前回はストレートでしかストライクを取れない状態で、それを狙われた感じでした。今週までに、全ての変化球でいつでもカウントを整えられる練習をしてきました」と、修正能力の高さをうかがわせる。リーグ戦での過去最長投球回は「2」だったが、大幅に更新した。
東京都内有数の進学校として知られる海城高出身。高校時代はオーバースローで、大学進学後アンダースローに転向したが、父の投球フォームを参考にしたわけではないという。「父には『走者がいない時にはプレートに足をそろえて、1度間を取ってから投げろ』と言われていますが、それは常に無視して、自分のやり方でやってきました」と言い放つあたり、向こう気の強さが表われている。
ただし球界関係者の間には、捕手のサインを見る時、腰をかがめ、左足のつま先を前へ向けるポーズは父親そっくり──と指摘する声もある。渡辺は「父の真似をしたというより、実際にやってみたら、捕手のサインと一塁走者を同時に見ることができて、合理的でした」と説明する。
10月5日から対戦する慶大には、元プロ野球選手を父に持つ清原正吾内野手(4年)、前田晃宏投手(3年)、広池浩成投手(2年)の“2世トリオ”がいる。渡辺は「(“ジュニア”が)どんどん増えてきているイメージですね。僕は野球エリートという経歴ではありませんが、絶対に比較されてしまうので、負けないように頑張ります」と表情を引き締めた。
父は野球日本代表としても、2006年と2009年のワールド・ベースボールクラシック(WBC)に出場し、大会連覇に貢献した。素直にアドバイスを聞くことはできないけれど、父の名を汚すようなことは絶対にしたくないのだ。