新庄監督「格好いい姿を見せてくれ」 引退試合のハム鍵谷に送った“最後のアドバイス”
打者2人を9球で料理…指揮官自ら花束を手にマウンドへ「感謝しかない」
■楽天 3ー1 日本ハム(25日・エスコンフィールド)
日本ハムの鍵谷陽平投手が25日、エスコンフィールドで行われた楽天戦で引退試合を行った。マウンドを去る際も、セレモニーの挨拶も堂々。何度か目頭を押さえる場面はあったものの涙はなく、晴れやかな笑顔が印象的だった。「絶対に泣かないと決めていた」という理由には、新庄剛志監督からの“最後のアドバイス”があった。
プロ12年間の最後の登板。北海道生まれの右腕が、エスコンフィールドのまっさらなマウンドに立った。小郷への初球は147キロを計測し、2球目で二ゴロに打ち取った。本来は打者1人の予定だったが、「もうひとりって言われてちょっと動揺したんですけど……」。苦笑いで振り返るが、続く小深田をしっかり遊直に打ち取った。
渾身の9球を投げ終えると、指揮官自ら花束を持ってマウンドへ。「うれしかったですね。1年しかできませんでしたし、1軍に来られなかったのでなかなかお会いすることはできなかったんですけど、それでもこうやって僕のことを思ってああいう形で送り出していただいて、本当に感謝しかないです」。熱い抱擁を交わし、鍵谷はグラウンドを去った。
「引退試合を迎えるにあたって、新庄監督に『楽しく格好いい姿を見せてくれ』と言われたので、絶対に泣かないで、笑って終わろうと決めていたのでずっとこらえていました。危なかったですけど、たぶん耐えたと思います」
楽天へ「時間を取らせてしまって申し訳ない気持ちもあるけど感謝」
2012年ドラフト3位で入団。2016年の日本一に貢献するなど長く救援としてチームを支えた。2019年途中にトレードで巨人へ移籍し、昨季限りで戦力外に。今季は育成ながら5年ぶりにチームに復帰し、7月に支配下を勝ち取った。背番号は「60」に変わり、1軍登板はこの日限りとなったが、“原点”でユニホームを脱げる充実感にあふれていた。
丁寧に「小郷君も小深田君もやりづらい雰囲気の中で真正面から対戦を受けてくれて、楽天の球団の皆さんも試合中に関わらず時間を取らせてしまって申し訳ない気持ちもあるんですけど、本当に感謝しています」と真っ先に相手球団への思いを述べるところも鍵谷らしい。最後の最後まで、人柄が表れた。
「北海道に生まれて育って、途中修行に出ましたけどこうやって戻ってこられてうれしかったですし、北海道に生まれて北海道で野球をやっていなかったらここまでできていなかったと思う。これからどういう形になるか分からないですけど何かの形で恩返しはしたいなと思います」。34歳で下した決断。今後歩んでいく道が楽しみだ。
(町田利衣 / Rie Machida)