引退の42歳が挑戦した“新球種” 描いた伸びしろ…もがいた変則右腕「中途半端だったので」
現役引退の比嘉幹貴が目指した“新球種”の習得
今季42歳でユニホームを脱いだ男は“伸びしろ”を信じていた。今季限りで現役を引退したオリックス・比嘉幹貴投手は、来季以降の1軍マウンドを目指して、新しい球種を会得していた。
「今までも挑戦しようとしていたのですが、ちょっと中途半端だったので。この時期にやってみようかなと思って」。比嘉が明かしたのは、酷暑の2軍の本拠地、舞洲。新球種は「ツーシーム」だった。
「インコースの真っすぐでもいいんですが、内野ゴロで併殺も取れるし、バットに当てさせたくない時にも選べるボールですね。ツーシームを使えたら外のボールも生きるだろうというのが、ずっと頭にありました」
引退間際も、自身の成長を止めようとはしなかった。比嘉は沖縄・コザ高から国際武道大、日立製作所を経て2009年ドラフト2位でオリックスに入団。変則サイド右腕は、直球にスライダー、スローカーブなどを駆使し、中継ぎとしてチームを支えてきた。
今季は4月24日に右膝痛で出場選手登録を抹消され、長いリハビリを経て7月初旬から投球を再開。お手本にしたのは“新戦力”の映像だった。「映像を見て、いいなと思った投手のボールを取り入れました。うちのチームなら、輝星(吉田)やヒロシ(鈴木博志)が、結構、ツーシームを使っているじゃないですか」。比嘉によると、「一長一短のあるボール」だという。
「1球で内野ゴロもあれば、野手の間を抜けていくこともあり、やってみないとわからないですから」。それでも捕手からは「手元で曲がって、使えます」と返事がきた。試合での感触はよかった。8月2日のウエスタン・リーグ阪神戦(杉本商事BS舞洲)で、2死一塁から豊田寛外野手への初球で使い三ゴロに仕留めた。
「ぐしゃっとするサードゴロ。なかなかよかったですね。僕のイメージとして(右打者の外角への)スライダーがあると思うんで(内角への)ツーシームという対角のボールは大事になります。ファウルも取れていますし(打者は)なんか気持ちの悪いスイングをしていますから、いい感じです」と、明るい表情で怪我からの復活や16年目に向け自信を深めていた。
最終的に右膝は回復してマウンドに立てたものの、連投に耐えることはできず、引退を決断した。どんな状況に追い込まれても、常に前を向き高みを目指した比嘉の姿は後輩たちに受け継がれる。
(北野正樹 / Masaki Kitano)