投球の悪癖矯正「高校3年間では足りない」 軟式出身に強みも…中学部活に潜む“リスク”
PL学園に有力選手を多数勧誘…井元俊秀氏が語る中学軟式野球出身の特徴
一般的に軟式野球は硬式よりもレベルが下に見られがちだが、甲子園常連校のレギュラーやプロ野球選手にも、中学軟式出身で活躍する選手は多い。軟式には軟式で培われる“強み”を知ることで、これまで気付いていなかった長所を発見できるはず。1980年代から1990年代にかけて黄金期を築いた高校野球の強豪・PL学園高(大阪)で、有望な中学生を全国からスカウトする役を務めていた陰の功労者・井元俊秀氏は、「軟式には強い子がたくさんいます」と話す。
PL学園は1956年の創部から、休部した2016年までに甲子園を春3回、夏4回制した強豪。圧倒的強さと華やかなスタンド応援で注目を浴びた。NPB入りした卒業生の人数は「82」にのぼり、これは中京大中京(愛知)に次ぐ2番目に多い数字だ。OBの活躍は国内に留まらず、松井稼頭央氏、桑田真澄氏、福留孝介氏、前田健太氏らがMLB移籍も果たした。
その目利きの高さで桑田氏と清原和博氏の「KKコンビ」を同校へ導いた井元氏。入部してくる球児は「硬式の中学生が多かった」というが、それでも「硬式のボールには半年もあれば慣れる」と、実際に軟式出身の球児も勧誘して聖地で躍動させてきた。そんな“伝説のスカウトマン”が感じてきた「強い子」を生む軟式出身のメリットとは何か。その答えを次のように語った。
「軟式は学校のクラブ活動なので、子どもたちが毎日のように練習できる。対して硬式のチームは、今は平日の夜に練習をしているところもあるようだけど、しっかりと練習できるのは土日だけ。つまり軟式の子には(練習量の差による)体力があったんです。練習を毎日してきたことによる継続力、気持ちの強さもあったように思いますね」
中学までに正しい投げ方習得を…“強み”を揺るぎないものへ
スカウトした軟式出身で最も印象的だった球児は、和歌山県・河西中の西田真二氏(元広島、現セガサミー監督)。まだ14歳ながら顧問に代わってまとめ役をする性格、「毎日カゴの中で1時間以上バッティングをしていた」という熱心さ、力強い打撃などに将来性を感じたと振り返る。
「練習の様子を見て、他のスカウトたちは西田のことを“気難しい”と感じたようですが、僕と、東海大相模監督でスカウトもしていた原貢さんだけは熱心に誘っていた。携帯電話がない時代だから西田の実家へ公衆電話で連絡して、原さんが帰ったことを確認してから、ご両親や西田本人と話すために家に行くんです。冬でもずっと待ちました。夜11時まで待ったこともありましたよ」
戦況を土壇場でひっくり返す強さから「逆転のPL」と言われた1978年夏、同校の甲子園初優勝にエース兼4番として貢献した西田氏。しかし、中学時代に打撃力こそ高評価をつけたが、投手力においてはそうではなかった。中学軟式の選手は野球経験がない先生が顧問に付いて「悪い癖がついていることがある」といい、西田氏にも同様のことが言えたという。
スカウトする上で「ボールを正しく投げられるか」を重要ポイントにしていた井元氏。西田氏については中学3年秋にPL学園中へ転入後に、投げ方指導を受けさせた。それでも、フォームの悪癖矯正は「高校3年間では時間が足りない」と言い、強豪校での活躍を望む選手は正しい投げ方、基本動作を大切に、小・中学生の段階で練習しておくべきだと力説した。
「ちゃんとした指導者と野球ができるのであれば、軟式でも強豪校に入ったり、甲子園に出られたりするチャンスはあります。軟式か硬式か、個々の筋力に適した方を選んで、『正しい投げ方』を学ぶこと。成長期後半の高校生になったら身体ができて筋力がつく。そうすれば周りとの差がより出てきますから」
軟式であれ硬式であれ、中学はまだ基礎固めの時期。先を見据えて焦ることなく、正しい技術で“強み”を揺るぎないものにしたい。
(喜岡桜 / Sakura Kioka)
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