野球弱小県を変えたのは「菊池雄星」 地元コーチ実感…限界突破で上げた“夢の基準”
大谷、佐々木朗希…左腕の旋風から岩手激変、切磋琢磨で「原石の見逃しなくなる」
「人」と「環境」が原石を磨く――。大谷翔平投手(ドジャース)、佐々木朗希投手(同)ら、MLBに挑む野球界の逸材を次々と輩出している岩手県。大船渡市立第一中時代に佐々木を指導し、現在は同市立東朋中軟式野球部(東朋野球クラブ)でコーチを務める鈴木賢太さんは、その理由の1つに菊池雄星投手(エンゼルス)の活躍を挙げた。「雄星選手のおかげで夢の基準が上がった」と話す鈴木さんが、現場で感じ取った“変化”とは。
2009年、当時高校3年生の菊池を擁する花巻東高は春の選抜で準優勝、夏の選手権でベスト4に進出し、甲子園で大フィーバーを巻き起こした。大船渡高野球部出身の鈴木さんは「それまで岩手県は1回戦で当たればガッツポーズされるような、野球の『弱小県』でした。あの時、その評判を結果でひっくり返して、『岩手でもやれる。限界はない』ということを発信してくれた」と振り返る。
「真面目で静かな県民性の岩手県民も心を揺さぶられて、少しずつ情熱の炎が燃え始めた。雄星選手が挑み続ける姿を見て、『俺らもやれば、もしかしたら』と考える子どもが増えたのではないでしょうか」。菊池に続くように大谷や佐々木が頭角を現し、岩手出身の堀田賢慎投手、西舘勇陽投手(巨人)、齋藤響介投手(オリックス)もドラフト上位でプロ野球の世界へ飛び込んだ。
“花巻東旋風”を機に「基準」が高まったのは大人も同じだ。鈴木さんは「原石は間違いなく全国各地にいる」とした上で、「私が尊敬する指導者から、『ダイヤモンドをダイヤモンドで磨いて削るように、人も人によって磨かれる』と教わりました。人が環境を作れば、良い選手が出てきて、その選手同士が切磋琢磨する。人が助け合えば、原石の見逃しはなくなってくるはずです」と強調する。
「朗希選手はアップの時間から、一人だけ汗をかいて取り組んでいた」
「今は東朋野球クラブの磯谷幸喜監督から野球を学ばせてもらい、地域からも叱咤激励をいただいて、最高の環境で現場にいられることに感謝しています」と話す鈴木さんも、環境を作る側の大人の一人。2012年秋から大船渡一中で約8年間コーチを務めた後、2年近く小学生を指導し、2023年7月からは現クラブで指導。現在の教え子にも、かつて携わった“逸材”のエピソードを伝えるようにしている。
例えば、佐々木の野球に対する態度について。東朋中の須賀隆翔主将は「朗希選手はアップの時間から一人だけ汗をかいて取り組んでいたと聞いた。うまくなりたいという気持ちがあった選手だと思うので、自分もそういう選手に少しでも近づけるように意識しています」と話す。
一方、鈴木さんは近年、危機感も覚えている。岩手の少年野球界でも競技人口は減少を続けており、その中で野手の適性がありながら人手不足のため投手をやったり、投手の適性がありながら「速球を捕れる選手がほかにいない」という理由で捕手をやったりするケースが散見されるという。
だからこそ、鈴木さんの指導には熱が入る。鈴木さんが「うちの選手もいずれは世界で活躍して、また『岩手から』『大船渡から』と言われるようになってほしい」と希望を口にすれば、須賀主将も「大船渡でもできることがある。大船渡の野球をもっと広めていきたい」と胸を張る。次なる逸材は東朋中から生まれるかもしれない。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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