中学軟式“大幅減”で「12球団も維持できない」 野球離れに歯止めかける「熱意倍増」

硬式チームとの交流戦に臨んだ軟式「福島球友会」の選手たち【写真:川浪康太郎】
硬式チームとの交流戦に臨んだ軟式「福島球友会」の選手たち【写真:川浪康太郎】

中学野球16万人維持へ「8000人確保を」…鍵握る“熱心で魅力ある”指導者の増加

 野球の競技人口減少に歯止めがかからない中、球界の未来への鍵を握るのは「中学軟式野球支援」だ。全日本野球協会によると、中学野球の競技人口は、軟式・硬式を含めて2007年からの17年間でおおよそ半減(約35万人→約18万人)。内訳を見ると、硬式野球が4.29万人→5.36万人と微増している一方、軟式野球は30.5万人→12.9万人と大幅に減っているのが特徴的だ。読売巨人軍野球振興部の倉俣徹部長は、「中学軟式の競技人口・レベルを維持できなければ、NPB12球団も維持できなくなる」と強調。野球離れの波にどう立ち向かうのか。

「競技人口が減り“マイナースポーツ”になっても、(日本の指導力があれば)大谷翔平選手のような逸材は育成できますが、野球を見に来るファンがいなくなり、国民スポーツではなくなります」。昨年12月に福島市で開催された、中学野球指導者を対象とした指導者講習会。登壇した倉俣氏は参加者に向けそう投げかけた。

 倉俣氏の見立てでは、現在の中学野球界には「熱心に指導のできる」指導者が約4000人いる。これを倍の8000人に増やし、各指導者が「1人で20人の選手を束ねられる」力を身に付け、最低でも軟式・硬式合わせて16万人(=8000×20)の競技人口・レベルを維持するのが倉俣氏のビジョンだ。

 中でも鍵を握るのが、部活動として行われている中学軟式。中学硬式は専用グラウンドを持たないチームが多いため「6万人で頭打ち」の一方、各学校がグラウンド(校庭)を持つ中学軟式は、それらを活用することで選手数を増やせる余地がある。

「指導者の影響力は計り知れない。指導者に魅力があれば、子どもたちはやる気を出してくれる」と倉俣氏。とはいえ中学軟式には、部活に良い指導者がいても本職は教員であり、数年で他校に異動してしまうという懸念点がある。そのためにも、質の良い指導者の数を増やし、選手・保護者が「良い指導者」と巡り会う機会を常に提供できるようにすれば、競技人口減少に抗うことはできるのではないかと考えている。

読売巨人軍野球振興部長の倉俣徹氏【写真:川浪康太郎】
読売巨人軍野球振興部長の倉俣徹氏【写真:川浪康太郎】

“初心者指導”に苦心する一方…「軟式の選手にも可能性ある」

 講習会の翌日には、硬式の「高崎中央ポニー」(群馬)と軟式の「福島球友会」(福島市、川俣町の中学選抜チーム)による交流戦が実施された。高崎中央ポニーの監督でもある倉俣氏は、この日も試合後の挨拶で中学軟式の重要性について言及。2023年のNPB開幕投手の半数は中学軟式出身だったことなどを例に挙げ、「硬式、軟式関係なく、良い選手は伸びる」と強調した。

 倉俣氏の話を聞いた福島球友会の主将・小林蒼宙選手(福島市立第三中)は、「硬式の選手の方が高校などの進路が決まりやすいと思うけど、軟式の選手にも将来活躍できる場があるなら、もっと頑張ろうと思いました」と自信を得た様子。高崎中央ポニー打線を相手に好投した渡邉隼選手(福島市立野田中)も「軟式の選手にも可能性はあると思うので、自分も活躍できるようにもっと進化したい」と力を込めた。

 一方、中学軟式の指導が一筋縄ではいかないのも事実。福島球友会のヘッドコーチで福島市立吾妻中野球部顧問を務める井桁悠介さんは、「競技人口が減る中で、小学校まで野球をやっていない初心者が入部するようになってきた。投げられない、捕れない、走れない、もはやルールもわからないという子もいます。そういう子たちを高校野球につなげようと時間をかけながら指導していますが、ゼロから教えるので難しさはあります」と本音を漏らす。

 福島球友会のメンバーのように高校野球やその先を見据えている選手もいれば、野球を始めたばかりの選手もいる中学軟式。教員の働き方改革や部活動の「地域移行」なども絡み、課題は山積みだが、熱意ある指導者の存在は間違いなく野球の未来につながる。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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