野球のルール、なぜ複雑で教えにくい? 初心者は戸惑い…他競技と異なる“特殊要素”
野球を始める子にルールを教えるコツは? まずは基本の“3パターン”から
野球のルールは複雑で、特に初心者の子どもたちへの指導に悩む声をよく耳にする。テレビで野球中継を見る機会は激減し、かつては当たり前だった空き地での野球遊びも、今ではめったに見かけない光景。取り巻く環境が大きく変化する中、競技内容をどのように教えればよいか。スポーツ科学・発達科学を専門とする東京農業大学の勝亦陽一教授は、「ルールは遊びの中で自然と身に付けられます」と、楽しみながら基本を学べるヒントを教えてもらった。
初めて野球に触れる子どもたちの反応は、実にさまざまだ。打球が飛んだ瞬間に大喜びしてその場にずっといたり、どのベースに走ればいいのか戸惑ったり。それを見た指導者や親は、もどかしくてつい「走れ!」「一塁はこっち!」などと大声を張り上げてしまうこともあるだろう。
これは決して理解力の問題ではない。上記のように取り巻く環境の変化で「自然に野球を覚える」機会が減ったのはもちろん、「野球を含めた『ベースボール型』の競技は、他のスポーツにはない独特の形式で試合が行われるんです」と、勝亦先生はその特殊性について解説してくれた。
たとえばサッカーやバスケットボールのような「ゴール型」は、攻守が常に入れ替わりながら、決められた時間内にゴールを多くすることを目指す。テニスや卓球などの「ネット型」は、ネットを挟んで両者が常に攻防を繰り広げ、決められた得点を目指す。
一方、野球は攻守が完全に分かれており、さらに、反時計回りに4つのベース(塁)を進む得点方式や、時間制限がない点など、独特な要素が多い。守備側が3アウトを取れない限り、延々と攻撃を続けることも可能なので、最後のアウトまで勝敗が分からない。
まずは「アウト」と「セーフ」を覚えることから始める
そんな“独特な”野球のルールを覚えてもらうにあたって、「得点方式を除いて、最初に教えたいのは『アウト』と『セーフ』です」と勝亦先生。特に重要なのが、アウトになる3つの基本パターンだと語る。
【1】フライアウト:空中にある打球を捕球する。守備側の選手が、打球が地面に落ちる前に捕れば、打者はアウト。最もわかりやすいアウトの取り方だ。
【2】フォースアウト:ベースまでの「競争」で守備側が先にベースを踏む。空中で捕れず、打球が地面に触れた場合、打者(走者)と守備側とで次のベースまでの「競争」になる。守備側が先にベースを踏めば、走者はアウト。走者が先にベースを踏めばセーフだ。
【3】タッチアウト:走者に直接ボールでタッチする。ベース上にいない走者にボールを持って触れれば、走者はアウト。
これらの3パターンを理解させることで、野球全体のルールを把握しやすくなる。走者のパターンによるアウトの取り方や、タッチアップなどの細かいルールは、実際のプレーを通じて徐々に覚えていけばよい。
そして、勝亦先生が提案する3パターンを教える指導法は、とてもシンプル。野球の要素を遊びに取り入れることで、子どもたちが自然とルールを理解できるようにするものだ。
遊びを通じて自然に学ぶ…「なんでできないんだ」は無論NG
まず「フライアウト」につながるフライ捕球の練習は、バレーボールのように、決められたエリア内で“ボールを落とさない”遊びから始める。最初から硬いボールではなく、柔らかいフライングディスクなどを使えば、ゆっくりと落ちてくるし、大きなボールを使えば捕りやすくなるので、捕球の基本動作を習得しやすい。
子どもたちはワイワイとにぎやかに、飛んでくるディスクや大きなボールを追いかけてくれる。「上手に捕れたね!」「惜しかったね、次は捕れるよ!」と声をかけながら、成功と失敗を積み重ねてコツをつかませることが大切だ。
「フォースアウト」については「ヨーイ、ドンのかけっこ」として説明する。「打ったボールが地面に触れたら、走者が先にベースを踏むか、守備側がボールを持ってベースに触れるか、競争だ。どっちが速いかな?」というように、競争心を刺激しながら遊び感覚で練習してみるとよい。
「タッチアウト」の練習には、誰もが知っている鬼ごっこを応用する。ボールを持った「鬼」から逃げて、タッチされなければ「セーフ」、タッチされたら「アウト」という具合だ。子どもたちは夢中になって走り回り、真っすぐだけでなく曲線にも走ることで、自然とベースランニングの感覚も身に付いていく。
ルールの説明やプレーの中で「そんなこともわからないのか」「なんでできないんだ」などと言うのはNGだ。「今の子どもは野球のルールを知らなくて当たり前。知らないことを責めないでほしい。それを楽しく自然に身に付けられるようにするのが、大人の役割」と勝亦先生。野球は確かに複雑なルールが多いが、その複雑さこそが魅力。そして、子どもたちは「楽しければ夢中になる」。野球を長く続けられるよう、「もっと知りたい」「やってみたい」と感じてもらえるところから始めてみたい。
(大橋礼 / Rei Ohashi)
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