野球の“正々堂々”に違和感「当たり前のこと」 人格形成に限らない将来価値とは?

礼儀・礼節の学びに限らない野球が持つ“価値”とは(写真はイメージ)
礼儀・礼節の学びに限らない野球が持つ“価値”とは(写真はイメージ)

野球というスポーツが持つ“価値”とは…複雑なチーム競技だからこその魅力

 勝つことだけが全てではないし、人格形成だけが魅力ではない。野球という競技は“複雑な”チームスポーツだからこそ、子どもたちの成長を促す様々な可能性を秘めている。楽しみながら目標に向かう過程で、協力や工夫、コミュニケーション能力を学ぶ場ともなり得るのだ。スポーツ科学・発達科学を専門とする東京農業大学の勝亦陽一教授が、野球を通じて身に付く要素について語ってくれた。

 野球には明確な目標がある。試合での勝利をめざすこと、競技力を向上させることなど、子どもたちや指導者・保護者は、それぞれに具体的な目標を掲げ、それに向かって進んでいく。その過程で、チームワークの重要性や、ルールを守って力を発揮する方法、目標達成のために必要な創意工夫など、様々な要素を学んでいく。

 例えば勝亦先生は、野球初心者の子がチームワークを覚える練習の1つに、複数人で行うボールハンドリングを提案する。円陣を作り、掛け声と共に各自ボールを左隣の子に放り投げる。右隣の子からボールが来るのでそれをキャッチする、というものだ。

「1人でのボール遊びは退屈になりがちですが、複数人で行うと面白さが増します。互いに協力し合い、声を掛け合うようになる。それがチームプレーの基礎になります」。野球に必要な“ボール操作”を習得しながら、自然と競技に必要なコミュニケーション能力も育まれ、それが将来的な社会性の基礎ともなる。

 勝亦先生は大学のグラウンドで「遊び場開放」を定期的に実施し、野球のルールをシンプルにアレンジしたゲームで初心者でも楽しめる工夫をしている。しかし、野球経験者の子が初心者に対して「そんなことも知らないの?」と言うことがあるらしい。そんな時、全員を集めて話をするそうだ。

「知らないことは悪いことではない。知らないなら、教えればいい。そう話すと、子どもたちはすぐに理解してくれます。むしろ、教えることで自分の理解も深まります」

 少年野球チームでも同様だ。学年の枠を越えて上級生が下級生に教えることで、ルールをより深く理解し、説明する力も身に付き、コミュニケーション能力もより高まる。さまざまな経験レベルの子どもたちが交わることで、より豊かな学びの場となり、教える側も教わる側も大きく成長していく。

東京農業大学の勝亦陽一教授【写真:伊藤賢汰】
東京農業大学の勝亦陽一教授【写真:伊藤賢汰】

「野球で一番の学びが、礼儀や上下関係では少し寂しい」

 野球を含むスポーツ活動の場では、しばしば「スポーツマンシップ」の大切さが強調される。勝亦先生は、この言葉の重要性を理解しつつも、違和感を覚えることがあるという。

「スポーツマンシップでよく言われる他者への敬意を持つこと、相手を思いやること、ルールを守ることなどは、日常生活でも当たり前のことで、スポーツ選手にだけ特別に求められることではありません。また、『スポーツを通して人格形成や社会性を育む』という側面が強くなりすぎると、スポーツそのものを楽しむことができなくなってしまう可能性があります」

 勝亦先生は「『野球を通じて一番学んだことは、礼儀や上下関係です』などと聞くと、少し寂しい気持ちになります」とも言う。野球はルールが複雑で、チーム・個人スポーツ両方の要素があり、投打走守など多様な動きが求められる難しい競技。だからこそ、「野球を楽しむ、競技力向上を目指す過程で、失敗と成功を繰り返しながら得られるものは、他にもっとたくさんあるはず」と語る。

 大切なのは、子どもたちがあくまで野球を楽しみながら、時に壁にぶつかりながら、それぞれが将来につながる独自の学びを得ること。グラウンドが、未来を育む豊かな土壌であってほしいと願う。

(大橋礼 / Rei Ohashi)

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