部活動改革に“勝利至上台頭”の懸念 受け皿待望も…不透明なルール順守「人生に関わる」

模索続く公立中学部活動の地域移行…茨城の軟式野球界の現状「外部指導者が足りていない」
指導者不足に勝利至上主義への懸念――。教員の労働時間や少子化対策を背景に進められている、公立中学校の部活動を地域のクラブチームなどに委ねる地域移行は、「改革推進期間」とされる3年間の最終年を4月に迎えるものの、現場では様々な模索が続いている。各都道府県、各自治体によっても状況は異なるが、茨城県中体連軟式野球競技専門部委員長の遠藤惠一さん(水戸市立石川中学校教諭)は、「中学部活を選んでくれた子たちにアンフェアにならない形を」と訴える。同県内の軟式野球の現状を聞いた。
かつては土日の長時間練習も当たり前にあった中学部活だが、教員の働き方改革とともに“タイパ”も求められる時代になった。スポーツ庁・文化庁は、平日は少なくとも1日、週末は1日以上の休養日を設け、活動時間は平日2時間、週末は3時間程度とガイドラインを示している。茨城県中体連もそれに従い、平日は火・水・金が2時間活動で、月・木は休み。週末も土日のいずれか半日(3時間)のみの活動が基本だ。
一方で地域移行の“受け皿”となるクラブ作りの進捗具合は、県内各地で異なる。一番の問題は、教員の代わりに生徒を教える「外部指導者の確保の難しさ」だという。「各自治体の教育委員会がクラブ化に向けて動いていますが、では、実際に誰が教えるんだとなると、全然足りていないのが現状です」と遠藤さんは明かす。
例えば、平日・週末ともに部活動を廃止し、教育委員会が主体となってクラブチームを立ち上げた県南の牛久市では、兼職兼業届を出した教員とともに「子どもたちに野球を教えたい」市の人材バンクに登録した人が外部指導員を務めている。いわば自治体・チームとのニーズがマッチした“レアケース”だ。一方で、県東地区では土日の部活動をなくしたが、週末指導は兼職兼業届を出した教員が主に担っているという。
意欲ある地域の指導者と自治体との“マッチング”はもちろんだが、「働き方改革の中でも、“部活で教えたい”という意欲を持つ先生方はいる。そういう方々を救える環境も大切だと思います」。兼職兼業届を受理して教えられる環境、そして、指導分に対して適切な報酬を支払える環境。予算面などの難しい課題はあるが、環境整備によって「教員の意欲を制限することなく、指導者不足の解消にも繋げられるのではないでしょうか」と遠藤さんは語る。

部活動を行う意義は「野球を通して人格形成や社会性を養うこと」
もう1つ、遠藤さんが地域移行の懸念点として挙げるのが、“勝利至上主義”のクラブチームが台頭してくることだ。
部活動の“受け皿”には、前述のように教育委員会が主導してクラブ化するチームと、地元の有志が立ち上げた(または既存の)民間チームとがある。いずれも中体連主催の大会には出場でき、そのためにもルールに則った活動が求められる。ところが「ガイドラインは示されているものの、それが守られているかを確かめる術は、こちらにはありません。本当にガイドラインに沿った活動時間で練習をしているのか、規程を守れていないのではないかと疑ってしまう民間のクラブも、ごく一部ですがあります」という。
「生徒のために活動機会を与えてくれる、または部活で足りない分を補完してくれるクラブが増えるのはありがたいですが、単に良い選手を集めて中体連の大会で勝つことだけが目的のクラブができると、弊害が起きてしまいます。部活動を行う意義は、野球部ならば野球というスポーツを通して、人格形成や社会性を養うことだと考えています。一生懸命練習してきた選手たちが、そうしたチームに最後の大会で負けた時、気持ちよく引退できるでしょうか。今後の人生にも関わってくることです」
多感な中学生を育てる上で、部活動が担ってきた“教育面”での役割は、保護者にとっても生徒にとっても大きかったはず。ガイドラインにもそうした「教育的意義・役割の継承と発展」を地域移行で目指すことが示されているが、異なる趣旨のクラブがそこに混在してしまうのは問題だ。「勝利至上の方針で活動するならば、中体連主催でなくても出場できる大会は他にもある」と遠藤さんは言う。
少子化、労働時間、地域事情などが複雑に絡み合う地域移行問題だが、あってはならないのは、そうした事情で子どもたちに不公平感が生まれることだ。遠藤さんは委員長の立場で、各自治体や外部クラブとの調整にも時間を割いている。「プレーしているのは同じ中学生。子どもたちが嫌な思いをしないように」。部活動の理念を守るべく、県内の教員たちとともに地域展開の理想型を模索していく。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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