「フライを正確に追えない」子に欠けるものとは? 打球判断に関わる“知覚の力”

東京農業大・勝亦陽一教授が解説…運動神経向上の土台となる「知覚」
投げる、打つ、走る。その一歩手前にある「見る力」「感じる力」を養うことが、実は野球上達の鍵になるという。First-Pitchでは少年野球などのスポーツ界で活躍する専門家・トレーナーに子どもの「運動神経向上」をテーマに取材。スポーツ科学・発達科学の専門家で、小学生からプロまで指導する東京農業大学の勝亦陽一教授に、野球をする上での“土台”となる「知覚」について詳しく聞いた。
勝亦教授はまず、野球の「運動神経」に関わる要素として、次の3つがあると語る。
【1】知覚(脳が感覚を受け取り気付く)
外部や体の内部からの刺激を、素早く適切に認識する能力。たとえば、視覚、聴覚、触覚などの異なる感覚情報を、脳で迅速かつ適切に認識(判断)する、など。
【2】認知(感じたことや考えたことから、行動を選ぶ)
知覚情報に加え、試合の環境・状況などを考慮して反応・選択・対応する能力。たとえば、野手が試合の状況と相手選手の動きを見ながら、必要なポジションに移動して打球に対応する、など。
【3】協調(調整)運動(力や動きをコントロールする)
脳からの指令により、複数の関節を連動・協調させる、ある関節を独立して動かす、力の大きさの調整をするなど、目的に合ったプレーをするために自分の体を思い通りに動かす能力。
「これらの3要素が合わさることで、野球における多くのプレーが上達します」と勝亦教授。中でも「知覚」は、すべての土台となるものだ。目で見て、耳で聴き、体で感じた情報を素早く適切に認識できてこそ、投げる・打つ・走るなどの動作と野球のプレーがつながる。一番わかりやすいのは視覚だろう。
「たとえば、外野手が打球を捕る場合、バットとボールのインパクト、打球の速度・角度などの情報を目で見て、自分の前に落ちるか、後ろか、右か左かを判断し、すぐに動き出す必要があります。これらの情報を目で認識する能力がなければ、飛球を追えません。野球では視覚からの情報が多いので、適切に認識できる能力をつけていくのは非常に大事です」
打球判断には、聴覚も関わってくる。「ボールとバットが当たる音」は、打球の質や飛距離を判断する手がかりになるからだ。高校野球ではバットの規格が低反発仕様に変わったとき、これまでの“音”の感覚と実際の打球とのズレに戸惑った選手も多かったという。
また、雨にぬれたボールの「滑りやすさ」を認識し、「滑らないように」投げるためにも触覚は重要。数多くの野球のプレーを適切に行うためにも、知覚が大切になるのだ。

高く投げれば投げるほど、ボールの落下速度は上がる
知覚には“応用編”もある。「見えているものを認識する」だけでなく、「見えているものから、次に何が起こるかを予測する」能力も含まれる。
「プロの投球がバッターの手元に届くまで約0.4秒しかかからないように、バッターは、ボールの軌道を自分の手元まで見て軌道を判断していたら、間に合いません。途中までの軌道から『このあたりに来る』と予測し、スイングする必要があります」。
子どもが「ボールをよく見て!」と指導され、目でボールを追いすぎて振り遅れてしまう場面はよくあるが、それは声かけの影響もあって“予測”が抜け落ちてしまうためだ。
では、具体的に子どもたちの知覚はどう磨いていくのか。勝亦教授が挙げるのは、人や物の動きを予測する「遊び」を増やすことだ。
例えば学校の休み時間に、鬼ごっこやドッジボールをしたり、休みの日には親子で広い公園へ行き追いかけっこをしたり、キャッチボールをしたり。ゲーム性のある遊びを通して、あまり難しく考えずに素早く予測を繰り返すことで、知覚能力は向上するという。
家で簡単にできるものもある。例えば、仰向けに寝転がって天井に向かって、柔らかいボールを投げてキャッチする遊び。「ボールを高く投げるほど、落ちてくるボールのスピードが増します。その違いを体で感じることは、フライを捕る感覚にもつながります」。片足立ちなどのバランス遊びも効果的だという。体勢が崩れそうになったときに、自分の体の変化に気づく力ーーいわば“体の声を聞く力”も、知覚の一部といえるからだ。
大切なのは、何よりも経験の積み重ねだ。「トライアンドエラーを繰り返すことで、『こう来たら、こうなる』という感覚が育ちます。失敗も重要な学びの1つ。挑戦し続ける気持ちがあれば、時間がかかったとしても、どんな子でも能力は育ちます」。そう語る勝亦教授は、現在開催中のイベント「運動神経向上LIVE」に出演予定。子どもの能力向上につながるヒントを、紹介してくれる。
「運動神経向上LIVE」4月25日(金)まで開催中…見逃し配信もあり
Full-Count、First-Pitchと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、4月25日まで5夜連続でオンラインイベント「運動神経向上LIVE」を開催中。足の速さなどの俊敏性を身に付ける方法は? バットやボールの扱いをうまくするには? 選手や指導者、保護者が知りたい、野球などのスポーツ上達に必須の能力向上につながる練習法を、豊富な実績を持つ指導者・トレーナー陣がアドバイスします。参加費は無料。出演者などの詳細は以下のページまで。
【運動神経向上LIVE・詳細】
https://first-pitch.jp/article/coaching-methods/20250403/10330/
【参加はTURNING POINTの無料登録から】
https://id.creative2.co.jp/entry
(大橋礼 / Rei Ohashi)
球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。
■「First-Pitch」のURLはこちら
https://first-pitch.jp/
