大人の“付きっきり”は「選手の発想出なくなる」 プロ6人輩出、富士大監督のタイプ別指導術

富士大・安田慎太郎監督【写真:伊藤賢汰】
富士大・安田慎太郎監督【写真:伊藤賢汰】

自分が届かなかった夢へ…富士大・安田慎太郎監督「1人でも多くプロに行かせたい」

「指導者が課題練や自主練をしている選手の視界に入るべきではない。口出しは論外だし、見るのも、ティーバッティングでボールを置くことさえもNGだと思います」。富士大の安田慎太郎監督は、選手との距離感についてそう持論を展開する。昨年のドラフトでは、大学の同一チームからの指名数(育成含む)では史上最多となる6人が指名を受けた。「1人でも多くプロ(NPB)に行かせたい」との考えのもと、約150人の大所帯をまとめている。

「経験上、付きっきりで教えてもあまり良くならない。指導者にずっと見られていると、選手は常に『(指導者は)このやり方でいいと思っているのかな?』と気になってしまうんです。そうすると選手は自分の発想が出ないし、打ち方や捕り方を試すこともできなくなります」

 安田監督自身、2016年に富士大のコーチに就任した当初は「付きっきり」で指導するスタイルだった。しかし思うような成果は出ず、2020年に監督に就いてからは接し方を変えた。

「決まり切った動き」のあるトレーニングは徹底してたたき込み、技術面は深入りせず自由に取り組ませる。課題練習や自主練習の時間は口を挟まず、遠くから眺めるだけ。すると意識の高い選手は自ら情報を収集し、さまざまな方法を試しながら、みるみるうちに力をつけていく。オリックス1位指名の麦谷祐介外野手ら、昨年のドラフトでNPB入りを果たした6人は、まさにそれを体現したメンバーだ。

各々で練習に取り組む富士大の選手たち【写真:伊藤賢汰】
各々で練習に取り組む富士大の選手たち【写真:伊藤賢汰】

タイプを見極め、分ける選手との接し方「意識の高い選手は“放牧”」

 常駐している大人の指導者は安田監督と沼田雄輝コーチのみだが、これも課題練や自主練への介入を減らすため。その分、外部コーチは積極的に招聘し、選手たちに「ヒント」を与える機会は設ける。

 そして質問してくる選手には丁寧にアドバイスを送る。中には「矯正してほしい」選手や「練習を指定されたい」選手もいるため、そういったタイプはそばで見守る。安田監督は「意識の高い選手は“放牧”して勝手にやらせた方が伸びる。やり方がわからない選手には丁寧に説明する。去年頃から選手によって接し方を分けるようになりました」と話す。

 もちろん、自由を与えれば悪い意味での「遊び」に走る選手が出てくるのも事実。それは「顔」を見れば一目でわかるという。「心境の変化や充実度は全部、『顔』で見ます」と安田監督。危うさを感じればすぐに野球との向き合い方について指摘し、正しい方向に導く。

「カテゴリーが上がると、選手は結果を出さないと次のステージで野球をできなくなる」。安田監督は大学卒業後、ドラフト指名を目指してクラブチームや国内外の独立リーグでプレーした。自身が届かなかったNPBの世界へ、教え子たちを送り出すため、1人1人が「結果」を出すための環境作りを日々模索している。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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