東大エースが狙う“プロの舞台” 元ロッテ右腕の父親も評価「特殊な投げ方なので」

高校3年の夏にアンダースロー転向、東京六大学リーグで孤軍奮闘
東大のエースで、今秋のドラフト前にプロ志望届を提出する意向を示している渡辺向輝投手(4年)が24日、東京六大学野球春季リーグ・立大1回戦に先発し、8回を1失点に抑えた。しかし打線の援護に恵まれず、0-1のまま迎えた9回に集中打を浴び、チームは0-8で敗れた。スタンドからは、渡辺の父で現役時代にロッテ投手として通算87勝を挙げ、日本代表としてもワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に2度出場した俊介氏(社会人野球・日本製鉄かずさマジック監督)が熱い視線を注いでいた。
“ミスターサブマリン”の異名を取った父の現役時代を彷彿させるアンダースローで、強力な立大打線を翻弄した。ストレート、シンカー、スライダー……どの球種を投げても球速はほとんどが110キロ台後半で、120キロを超える球は少ない。本当は130キロ以上の球を投げることもできるが、相手打者にとってストレートと変化球の見分けがつきにくいように工夫しているのだという。8回までは9安打を浴びながら、1失点の“粘投”だった。
しかし0-1のスコアで迎えた9回、犠飛で2点目を奪われると制球が乱れ、この回3点を献上し、なおも2死二、三塁のピンチを残してマウンドを降りた。救援した前田理玖投手(3年)も打たれ、渡辺には8回2/3、123球6失点が記録された。大久保裕監督は「渡辺はよく試合をつくってくれたが、あと1本が出なかった。拙攻でした」と、得点圏に5度も走者を置きながら1度もモノにできなかった打線を嘆いた。
渡辺はもともとオーバースローだったが、故障をきっかけに東京・海城高3年の夏、“サブマリン”に転向した。東大では昨秋から先発するようになり、今季は全カードの1回戦先発を任され、9戦全敗(24日現在)のチームにあって、首位の明大を相手に9回2失点の投球を見せるなど孤軍奮闘している。
実は3代にわたる“投手家系”「心は熱く、頭は冷静に」の金言
この日は父・俊介氏とともに、祖父の秀夫氏も観戦していた。ちなみに秀夫氏も、国学院栃木高、国学院大時代にスリークオーターの投手として活躍。渡辺は3代にわたる投手の家系というわけだ。
俊介氏は、今季の渡辺について「力まず、相手打者を見ながら投球できるようになったと思います」と成長を認めている。また、「向輝ばかりが注目されがちですが、捕手で主将の杉浦(海大捕手=4年)くんのリード、リーダーシップが素晴らしいです。杉浦くんのサインに首を振ったことは、ほとんどないと思いますよ」とも付け加えた。
渡辺自身も「去年までは闇雲に、捕手のサイン通りにひたすら投げていましたが、今季は試合をつくることを目標にやってきて、だいたい5回までは、打たれずにゲームメークできるようになったのが成長かなと思います」とうなずく。父からは「先発投手は、1度でもギアを上げ過ぎると、その後収拾がつかなくなる。常に淡々と、力を入れ過ぎず、辛抱強く投げなければならない」と教わっているそうで、「『心は熱く、頭は冷静に』と言われました」と明かした。
渡辺の魅力の1つは、投球中も絶やさない天真爛漫な笑顔である。俊介氏は「楽しそうに野球をやっているので、いいですよね」と目を細めつつ、一方で「『もしプロになったら、背負うものができる。今のようには野球を楽しめないぞ』と伝えています。それを覚悟の上で挑戦すると言うなら、いいのではないかと思います」と述懐した。
元プロの目から見た渡辺の実力も「特殊な投げ方なので、いいんじゃないですか。評価はいろいろだと思います」と評する。
身長167センチ、体重63キロと線は細いが、努力と工夫で、プロ志望と口にしても決しておかしくないレベルまで成長してきた渡辺。父もプロの厳しさを伝えつつ、本人の気持ちを後押しする。渡辺はドラフトまでにどんな成長を遂げ、どのような最終決断を下すのだろうか。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)