輪に入れなかった阪神の“天才打者” コーチが抱えたもどかしさ…蘇らせた岡田監督

広島など4球団でプレーした長嶋清幸氏【写真:山口真司】
広島など4球団でプレーした長嶋清幸氏【写真:山口真司】

元広島・長嶋清幸氏、2023年の岡田阪神「絶対、優勝する」

 広島などで活躍したレジェンド外野手の長嶋清幸氏は1997年の現役引退後、指導者としても実績を積んでいった。2001年から2年間は阪神・岡田彰布2軍監督の下で2軍打撃コーチを務めた。その野球観に触れたことも勉強になったという。いずれの年もウエスタン・リーグ優勝。2002年はファーム選手権も制した。「2軍であれほど勝ちにこだわる監督はいなかったと思う」。その時から1軍の将になった時は優勝させる人と確信していたそうだ。

 2020年から長嶋氏は愛知県犬山市の「元祖台湾カレー犬山店」のオーナーとして毎日“フル回転”している。違う世界に離れたとはいえ、野球の話をする時もあるとのこと。2022年オフに岡田氏が阪神監督に就任する際には「お客さんに『絶対、阪神優勝するよ』って俺、言ったんだよ。そしたら案の定だったもんね」。2023年の岡田阪神のリーグ優勝&日本一を見事に的中させたわけだが、それはかつて岡田2軍監督の下でコーチを務めた経験が“予言”させていた。

 阪神を野村克也監督が率いていた2001年、星野仙一監督が率いていた2002年。1軍の将が代わった中、2軍は岡田体制が継続された。長嶋氏はその間に2軍打撃コーチを務め「岡田さんの野球観はすごい」と、うなる日々でもあったという。「意外と口下手な人なんだけど、やっぱり何と言っても選手を大事にするからね。その見極めも鋭い。いろんな話をさせてもらったけど、選手のことをよく考えておられたし、俺にとってもすごく息が合う人だった」。

 長嶋氏が2軍打撃コーチを務めた2年間、阪神2軍はウエスタン・リーグを連覇した。2001年の松山でのファーム選手権ではイースタン・リーグ覇者の西武に0-5で敗れたが、2002年はそれもリベンジ。2年連続、松山で西武と対戦し、16-3で勝利した。その結果も必然との見方だ。「だってさ、岡田さんほど、2軍であれだけ勝ちにこだわる監督はいなかったと思うよ」と声を大にした。それもまた勉強になったそうだ。ちなみに阪神・岡田2軍はそれ以前の1999年もリーグ優勝&ファーム選手権制覇を成し遂げている。

 2軍は勝利よりも育成第一とよく言われるが、長嶋氏は「2軍でも勝ち癖がなかったら、選手って育たないよ」とピシャリ。「弱いチームでね、負け試合で育てるなんて難しい。やっぱり勝ちにこだわって、いかにして勝てるかということが大事。そこに技術がついてくると思うんだよね。この選手をAランクにって言われても弱いチームで育ったヤツなんて一人もいない。最初から出てくるヤツは何にもしなくたって勝手に自分の力で上がっているって」。

岡田2軍監督の下でコーチ「一緒にやれて、本当によかった」

 野村監督とソリが合わずにくすぶっていた1996年阪神ドラフト1位の今岡誠内野手への“岡田采配”も見事だったという。「今岡には俺も(1998年~2000年までの1軍打撃コーチ補佐時代に)結構、いろいろ言った。仕事はできるんだけど、活気がなくてチームの輪の中にもあまり入ってこられない。結果が出なかったら練習するしかないだろってなっても、なかなか……。でもね、岡田さんはそんな今岡をすごく大人扱いしたからね。あれで彼は生き返ったよね」。

 これもまた選手の本質を岡田2軍監督がうまく見抜いていたから。今岡は2002年の星野体制から成績をグングン上げて主力選手に成長していったが、それ以前の岡田タクトもこれには無関係ではないと長嶋氏は見ている。「今岡とはのちに俺が(2010年から)ロッテでコーチになった時に、また一緒になったんだけど、阪神で会った最初の頃とは違って、すごくいい青年になっていた。技術論とかいろんな話もできた。何かそういうものを持っていたんだよね、やっぱり」。

 長嶋氏は当時の岡田2軍監督に「プライベートでもすごいかわいがってもらった。面倒を見てもらって、すごいありがたかったよね」と感謝する。「どこかに行く時にも今日付き合ってくれとか言われてさ、俺のことも部下というより、何か戦友みたいな感じで接してくれたんだよね」。2004年に岡田氏が阪神1軍監督に就任した時に、長嶋氏は落合博満監督体制の中日コーチに移籍したが、その頃から「いつか1軍でも優勝させるんだろうなぁと思っていた」と話す。

 2005年に岡田阪神が優勝、長嶋氏がいた落合中日は2位に終わったが、その結果も不思議ではなかったのだろう。時が流れ「元祖台湾カレー犬山店」のオーナーとして2023年の阪神優勝をいち早く“予言”したのも「あの時のセ・リーグで岡田監督に勝てるチームはたぶんいねーよって思ったんだよ」と普通に考えてのことだった。そして「岡田さんはオリックスでも監督をしたけど、やっぱり阪神愛がすごい人だよね」とも。

 試合展開の鋭い読み、選手それぞれへの的確なアドバイス、勝利をつかむための采配……。勝ちながら育てる“岡田の考え”に刺激を受けた。おかげで指導者としての引き出しも増えた。「あの人と一緒にやれる機会があって、本当によかったと思っている」。岡田2軍での阪神コーチ生活も長嶋氏にとって貴重な時間だった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY