試合で「力を発揮できない」本当の要因 緊張は悪か…大人が注意したい“失敗対応”

緊張とうまく付き合うためにはどうすれば良いのだろうか(写真はイメージ)
緊張とうまく付き合うためにはどうすれば良いのだろうか(写真はイメージ)

選手の「ベストパフォーマンス」を引き出す方法をメンタル専門家が解説

 人は大事な場面になると、普段通りの力を発揮できなくなることが多い。野球でも、試合になるとパフォーマンスが発揮できないという選手は多いだろう。それは、いつもと違う環境に置かれるだけで、脳の働きが変わってしまうからだ。“緊張”は心と体の自然な反応だが、呼吸が浅くなったり、筋肉が無意識に力んで体が硬くなったりして、思うような動きができず、結果的にエラーやミスにつながる悪循環を生むことがある。

 ではこの緊張とうまく付き合うためにはどうすれば良いのだろう。「メンタルトレーニング石井塾」でスポーツ選手や社会人へのメンタル指導を行う石井亘さんに、少年野球にも役立つ方法を伝授してもらった。

 石井さんはまず、「緊張は“悪いもの”とされてしまいがちですが、“自分の力を発揮したい”という前向きなエネルギーの表れと考えてほしいです」と語る。ストレスはそもそも“エネルギー”であり、適度な緊張(=ストレス)が最高のパフォーマンスを引き出す原動力となるからだ。

 ストレスとパフォーマンスとの関係性は、その強弱によって“逆U字”の形で表すことができる(ヤーキーズ・ドットソンの法則)。人は、本人の能力に対して周囲からのストレスがないと退屈を感じてやる気が起きにくい(グラフ左側)。反対に、周囲からの重圧が強すぎると不安を感じてパニック状態になり(グラフ右側)、いずれもパフォーマンスは低下する。

 グラフの中央のように、リラックスと緊張のバランスがとれている状態(=集中)が理想的で、そのバランスが絶妙になった瞬間に訪れるのが「ゾーン」(究極の平常心、フロー)だと石井さんは説明する。

 つまり、その子の能力や性格に合わせて適度なストレス・緊張状態にしてあげることが、ベストパフォーマンスを引き出すことにつながる。この法則に則り、やる気が少ないタイプの子には多少のプレッシャーをかけ、不安が大きいタイプの子には、緊張を緩和してあげる。これが指導者をはじめとする大人の役割といえるだろう。

試合の前夜や就寝前に「名場面動画集」でポジティブイメージを作る

 なお、子どもによって性格やタイプは異なるため、上記簡易テストでチェックするとわかりやすい。各設問の点数にチェックを入れ、3タイプごとの合計点数を書き出してみよう。9点以上になると、そのタイプに該当するといえる(複数タイプに該当することもある)。

・Aタイプ…認知思考系(緊張は悪くない、バットを振り切れればOKなど、ネガティブマインドを変える言葉掛けが有効)
・Bタイプ…暗示催眠系(お前なら必ずできる! と言葉やイメージで成功への暗示をかけるのが有効)
・Cタイプ…行動感覚系(体に意識を向けさせ、呼吸やストレッチで身体の緊張を緩和させるのが有効)

 緊張とうまく付き合うために、子どもにも呼吸法やイメージトレーニングが有効だと石井さんは続ける。「腹式呼吸によって副交感神経を働かせて、心身をリラックスさせたり、“うまくいく自分”をイメージすることで脳に安心感を与えたりすることができます」。

 石井さんの提唱するレゾナンス呼吸法を紹介しよう。

 椅子に座り、背もたれには寄りかからず背筋を伸ばし、胸を少し張って顎を軽く引いた姿勢をとる。その状態で目を閉じ、みぞおちの辺りに意識を集中させ、5秒かけてゆっくり息を吸い、5秒かけてゆっくり息を吐くのを繰り返す。息を吸うのは口か鼻、吐くのは口で行い、できるだけ腹式呼吸で行う。

 慣れてきたら立った状態でもこれを5分ほど。朝・昼・夜の1日3回行い習慣化することで、心身がリラックスしやすくなり、いざというときに平常心を保ちやすくなるという。同時にリラックスできる音楽を流したり、落ち着ける場所をイメージしたりしながら行うと、さらに効果が高まるそうだ。

「野球の場合は、バッターボックスに立つ前や、守備位置に向かう前に意識して行うのがお勧め。試合の時だけ行うのではなく、ルーティン化するといいです。また試合の前日、就寝前などに過去の自分の名シーン動画(ヒットを打った、三振を奪った)を見て、良いイメージを持つ方法も取り入れてみてください」

失敗した時こそかける言葉に工夫が必要だという(写真はイメージ)
失敗した時こそかける言葉に工夫が必要だという(写真はイメージ)

エラーや三振をしたときは「本人の言葉で話させて、共感すること」

 指導者や保護者は、子どもがエラーや三振といったミスをしたときほど対応に注意が必要だ。緊張は、過去の失敗の積み重ねによって怖さや不安が思い出されて、生まれるもの。だからこそ、失敗したときほど責めるのではなく、子どもの不安を取り除き、失敗が蓄積されない工夫をすることが重要だという。

 失敗が蓄積されると、それが苦手意識となり、ひいてはトラウマやイップスの原因ともなる。このために成長が止まってしまう選手も少なくないという。

「ミスした事実やそのとき感じた気持ちを、本人の言葉で話させて、共感すること。否定をせずに最後まで耳を傾けたあと、トラウマを作り出さないように、“大したことではなかった”と認識させてあげればいいのです」

 最後にこんな質問をしてみた。子どもでも大谷翔平投手(ドジャース)のようにゾーンに入ることはあるのだろうか。

「実はゾーンというのは、幼少期こそ、その感覚に入りやすいのです。なぜなら、大人と比べて失敗の経験が少ないから。ゾーンに入る感覚を早いうちから身に付けられるよう大人が適切にサポートできれば、さらなる怪物の誕生も近いかもしれませんよね(笑)」

(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)

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