20年前の通報が契機…“野球=危険”を覆すキャッチボール専門球 プロもこだわる「本物の感覚」

プロ野球選手会と内外ゴムが開発…“柔らかい硬式球”「ゆうボール」に込めた思い
野球の基礎ともいえるキャッチボールで競技人口を増やし、家族や友達との輪を広げていく。プロ野球選手会監修のもとに開発された、当たっても怪我をしないキャッチボール専用球「ゆうボール」は今年で発売から20年目を迎えた。野球界の未来を拓くため選手と共にアイデアを出し合った森忠仁事務局長に、開発当時の秘話を聞いた。
危険であることなどを理由に、公園や空き地などで禁止されるようになった“ボール遊び”。今から20年前には、既にそのような環境に変わりつつあった。硬式ボールと同じデザインで縫い目もありながら、当たっても怪我をしない「ゆうボール」の開発に携わった森事務局長は「当時の理事長から提案があったんですよ」と振り返る。
現役のプロ野球選手も頭を抱えていた。2006年に社団法人日本プロ野球選手会理事長を務めていた小久保裕紀氏(現ソフトバンク監督)から「キャッチボールをやる場所がないんです」と相談を受けたという。休みの日に自宅近辺で子どもとキャッチボールをしていると、通報が入り泣く泣くやめることに――。「危険性のないボールを作ることはできないか?」と提案され、ゴム製品メーカーの「内外ゴム」と連携し開発が始まった。
松坂大輔氏(当時西武)、黒田博樹氏(当時広島)らに試作品を実際に投球してもらい改良を重ねた。野球の“入口”として使用する目的とともに「上のカテゴリーでも続けられるボール」にこだわり、硬式ボールと同じ縫い目や山のあるデザインを採用。何度も試投し、柔らかい素材でありながら、硬式球に近い感覚で投げられる「ゆうボール」が完成した。

コンセプトは「遊」「友」「YOU」「結う」4つの「ゆう」
現役選手からも好評で、日本プロ野球選手会が2006年に立ち上げた「キャッチボールプロジェクト」では、公認球として使用。オフのイベントでも野球を始める前の子どもたち、未経験家族のコミュニケーションツールの1つとしてキャッチボールを楽しんでもらっている。
「ゆうボール」は屋内で使えるのもメリットの1つ。雨天や寒冷地などではグラウンドで硬式球が使えないこともあるが、柔らかく安全な素材でできているため、室内でも気軽にキャッチボールやノックが可能だ。森事務局長も「外で運動する機会が少なくなってきている。イベントなどでも使用するボールは『ゆうボールを使いたい』と、一般の方にもイメージしてもらえるようになってきた」と実感している。

開発から20年が経ち、認知度は確実に上がっている。2023年に大谷翔平投手(ドジャース)が日本国内の約2万校の小学校に寄贈した「大谷グラブ」は、校内で飾られているだけのケースも多かった。「ボールがなくてグラブが使えない」と、使い道に悩む学校に対し「ゆうボール」が選ばれ寄贈されることもあったという。
ゆうボールは「遊(あそぶ)」「友(ともだち)」「YOU(あなたと)」「結う(つながる)」の4つの「ゆう」をコンセプトに名付けられた。野球人口の減少が問題視されているのなか、野球の楽しみを実感する第一歩として、これからも普及活動を続けていく。
(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)
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