キャッチボールで重要な“3つの要素”とは? データ野球時代に「生き残れる」投手の特徴

西武・今井達也【写真:小林靖】
西武・今井達也【写真:小林靖】

元中日エース・吉見一起氏「バランス、リズム、タイミングが揃えばどんな投げ方でもOK」

 ピッチングもバッティングも、あらゆる要素がデータで可視化される時代に大切になるものは何だろうか。数値を突き詰めていくことで、より効率化され、画一化された動作になっていくイメージもあるが、元中日エースで日本代表「侍ジャパン」投手コーチを務める吉見一起さんは、「自分の体を知ることがさらに大事になる。むしろ“多様性の時代”になるのでは」と語る。野球の基礎練習であるキャッチボールについても認識が変わっていったというが……その真意とは。

 吉見さんは、5月に発売となった、西武・今井達也投手らの活躍で注目される「鴻江理論」をサポートするグッズのローンチイベントに登場。同理論を提唱するアスリートコンサルタント・鴻江寿治氏から現役時代に受けた指導や、そこからの学びについて語った。

「鴻江理論」とは骨盤の開きの左右差をもとに、人の体を猫背型の「うで体」(うでからだ)と反り腰型の「あし体」(あしからだ)の2タイプに分類するもの。吉見さんのタイプである「うで体」は、腕主導で投球動作を開始するとスムーズな動きになる一方、左腰が開きやすい傾向があり、吉見さん自身も現役時代、そこに課題感や故障の要因があったと言う。

「基本的にグラブを持つ体の左側だけを意識し、左肩に目がついて(捕手方向を向いて)いるイメージを持って壁を作ることを考えるようになりました。(腕を振る)右側はほとんど意識してなかったですね」

 オフには鴻江氏から指導を受けながら、自分自身の感覚と向き合い、捕球時に人差し指と小指を使ってグラブを閉じるなど用具の使い方にまでこだわった。一方で、同時期に鴻江氏に師事していた千賀滉大投手(当時ソフトバンク、現メッツ)は「あし体」タイプで、同じ右投手でも吉見さんとは正反対の指導を受けていた。「当時は自分のことだけで精一杯」だったが、本を読むなど勉強をするうちに、体の構造や感覚は人それぞれ異なることを改めて学んだという。

中日で活躍した吉見一起氏【写真:高橋幸司】
中日で活躍した吉見一起氏【写真:高橋幸司】

西武・今井の“軸足に乗らない”フォーム「理に適っている」

 キャッチボールについても考え方が変わっていった。以前は「足の上げ方や体重移動など、全ての動きを毎回同じにできれば狙ったところに行く」と再現性を高めることが大事だと考えていたが、次第に「バランス、リズム、タイミングの3つさえ揃っていれば、どんな投げ方でもOK」と思うようになった。

 始動時に片足でバランスよく立つこと、リリースのタイミングをしっかり合わせること。あとは一連の動作をリズム良く行えるか。「極端に言えば(細かい)過程やリリースの位置はどうでもよく、結果的に相手の胸に投げられているかが大事。常に同じ条件で投げられるわけではないので」と語る。

 もちろん、それができるのは基礎があり、自分自身をよく理解していることが前提だ。球界に押し寄せるデータ化の波は吉見さん自身も実感しているが、「数値を追い求めていれば良くなるのかと言えば、そうじゃない。自分の体に落とし込めるかは別問題。むしろ引き出しが多い方が、これからの時代は生きていけるんじゃないでしょうか」と言う。

「あし体」タイプの今井はその好例かもしれない。右足の接地時間が短い、つまり“軸足に重心が乗らない”投球フォームだが、「右足の擦りが短い(右)投手はダメという意識が僕にはあったけれど、今井投手には理に適っている。同じような投げ方の子どもたちにも『もっと地面を蹴ろうぜ』ではなく、それもありなんだと思えるようになった」と吉見さん。

 怪我の少ないフォームを求めつつ、どれだけ“個性”を生かせるか。行き詰まっている選手に「『こういう体の使い方もあるよ』と言うアドバイスはできるかな、と思いますね」と、抜群の制球力で鳴らした自身の経験を指導に生かしていく。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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