イチロー氏が明かした“成功までの哲学” 学生に伝えた思い「自分ってこうなんだ」

イチロー氏「リスクのないところに成果はないと確実に言える」
レジェンドの“哲学”に、息を呑むしかできなかった。マリナーズで会長付特別補佐兼インストラクターを務めているイチロー氏が20日、大阪・関西万博の会場にサプライズ登場し、来場した学生たちを驚かせた。「好きなことを見つけて扉を開こう」を議題に、笑顔でトークセッションを行った。
20日は「世界難民の日」とされており、イチロー氏はユニクロのチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」にも携わっている。自身がデザインしたTシャツがユニクロから発売され「好きなことを見つけて、とにかくその扉を開いて。1歩を踏み出してほしい。そういう思いです」と思いを綴った。
白地のシャツには、胸付近に1つの扉がデザインされている。「押して向こうに行くのか、引いて少し覗きながら行くのか。若い人は恐れることはなく勇気を持って押してほしい。ある程度、人生経験を踏んだ方々は少し慎重に覗いて、考えてから扉を引いてほしい」と老若男女に向けてメッセージを送った。
学生からの質問にも真剣な表情で解答を続けた。「リスクという言い方はあまり美しくないんですけれど、リスクのないところに成果はないと確実に言える。その勇気を持って進んで、自分の目で見ること、肌で感じることが大切ですね」と、どんなことにも挑戦する意義を語った。
超一流への道のりは「多くの人が違う価値観で物事を捉えている。それに惑わされるようではなかなか人より秀でることは難しいと思います。今の全体の正解はこうである、と認識して。その上で個性を磨いていく。研鑽を重ねていくということだと思います」と力を込めた。
「まずは社会的に正解とされるものを認めつつも『自分はこうなりたい』『自分の目標はこうだ』というのをしっかり持って進んでいく。(それが)おそらく、社会人として大人になっていくということなんじゃないかなと思いますね」
「人に背中を押してもらうことはあっても、人に扉を開けてもらうことはない」
睡眠の大切さにも触れ「おじさんになるとね、ずっと続けて眠れなくなるんですよ(笑)。そういう傾向があるんですけど。睡眠って、良いパフォーマンスをするために(練習を)頑張ることよりも大事かもしれないですね。肉体的なことだけじゃなくて、メンタルにも影響するんです」と続けた。
「悩みのある人が3日間、眠らずに答えを出しましたって言いがちでしょ? これ絶対ダメです。しっかり寝てから考えてほしい。そんな普通じゃない状態で出した結論なんて、全然冷静じゃない。結局、人の感情に訴えかけているだけで。なんなら、いつもより寝てから考えてくださいと僕は思う。大事な決断をする時は、しっかり寝る。夜暗い時に考えない。お日様が燦々と照りつける中で考えた結果なら納得ができる」
将来の夢について悩みを持つ学生には「やりたいことをやったら? 今やっていることが正解なんて今はわからない。何年か後に答えが出るわけです。今やりたいことがあるんだったら、踏み込まない理由は僕にはない。不安だよ? 怖さもあるし。だけど、怖いからやりたいことやめられるの? その程度だったら、やめてもいいかもね。『本当にやりたいのか?』って思っちゃう。本当にやりたいならやるしかない。僕ね、そんな人生なんですよ。(自分は)野球の世界で長い間やってきたんですけど(周囲は)『できないできない』『こんな細い体でできない』そればっか。でも、僕はやりたいから進んできたし、自分で出した結論に従って生きてきたので後悔はない」と真っすぐな視線でエールを送った。
「人に背中を押してもらうことはあっても、人に扉を開けてもらうことはない。それに従うことはない。自らの力で扉を開けていく。その勇気は必要だと思いますね。『自分ってこうなんだ』という自分を作り上げてほしい。どんどん勇気を持って進んでいくと『自分ってこうなんだ』というのがきっと見つかる。『自分ってこうなんだ』って説明することって、意外と難しいと思うんだよね」
イチロー氏は今、エプロンをつけて料理に励んでいる。「(今までは)お皿を下げるしかできなかった。この先、いかがなものかと思ったんです」。最初にパスタを作った時に「どうやら下準備や片付けまで好きになった」と話すと「のめり込んでいる最中です、今」と熱中していることに胸を張った。夢中になった毎打席のように、今はキッチンでも袖をまくる。
(真柴健 / Ken Mashiba)