人間的成長がプレーに直結→一躍ドラフト候補に 引き出す潜在能力…浦和学院監督の育成術

浦和学院・藤井健翔【写真:磯田健太郎】
浦和学院・藤井健翔【写真:磯田健太郎】

2021年に就任した34歳の若き指導者、浦和学院・森大監督の指導論

 埼玉の名門・浦和学院野球部を率いる森大(もり・だい)監督は、父である前監督から受け継いだ伝統と現代の教育理論を融合させた独自の指導法で注目されている。自身も同校OBで甲子園に出場し、大学、社会人でプレー。大学院に進み、心理学も学んだ。チームづくりの根幹にあるのは、野球技術の向上だけでなく、選手一人ひとりの人間的成長への深いこだわりだ。その指導論は学ぶべき点が多くある。

 岡山の中学から浦和学院に憧れて埼玉に来た主砲・藤井健翔内野手(3年)は考え込みがちな内向的な性格だった。甲子園の重圧に苦しんだ1年生から4番を務めた主将の西田瞬内野手(3年)とともに成長曲線を描き、2人はドラフト候補として注目されている。新入生も含め、森監督は画一的な指導を一切行わず、選手の出身地、性格、経験を深く理解し、一人ひとりに最適な声かけと育成プランを実践する。

 森監督の指導でもっとも注目すべきは、選手一人ひとりの性格や特性を深く理解し、それぞれに最適化されたアプローチを行っている点だ。藤井への指導では、岡山から埼玉に来た環境の変化と、真面目で考え込みがちな性格を踏まえたコミュニケーション重視の育成を実践した。性格を理解した上での長期的な成長戦略だ。

「彼はとても真面目な生徒で、良い意味でも悪い意味でもすぐにいろいろ考え込んでしまう癖がありました。自分で悩んでばかりではなくて、誰かに相談したり、できればアウトプットしたりと、そういうところをこの3年間で身につけていってもらえればと思っていました」

 この指導方針の成果について手応えを感じている。単なる技術面だけでなく、人間関係における構築能力の向上を重視している姿勢がうかがえる。

「いい意味で自分の言いたいこと、喋りたいことをちゃんと会話している。大人ともコミュニケーションがしっかりと取れるようになってきているのが良かったところです」

選手を指導する浦和学院・森大監督【写真:磯田健太郎】
選手を指導する浦和学院・森大監督【写真:磯田健太郎】

新入生に対しては環境の変化に対する細やかなサポートを重視

 中学時代にスカウトした際の第一印象について振り返る。身体能力だけでなく、その能力を活かすための動きの良さに注目していた。

「まず率直に体が大きかったです。そして、その大きさの割に動けた。そういう意味では、元々、捕手だったのですが、捕手としての動きや、俊敏性って言えばいいんですかね、その部分で可能性があるんじゃないかなっていう気持ちでいました」

 西田に対しては、1年生から甲子園で活躍した経験がもたらすプレッシャーに配慮した指導を行った。自身の体験を共有することで、選手の心理的負担を軽減しようとする意図が込められていた。

「私も自分の学年で甲子園に行きましたが、新チーム当初の秋は、聖望学園さんに同じくベスト8でコールド負けして、その聖望学園さんが選抜で初出場して準優勝しました」

 今春の選抜では浦和実が初出場でベスト4の躍進。前年の秋季大会準々決勝で浦和学院は同校に敗れている。自身の悔しい経験を通じて、西田の「自分がやらなきゃ」という思い込みを和らげようとした。一人で背負い込む必要がないことを伝える具体的なアドバイスが続いた。

「周りはそんなにあなたのこと気にしてないよって、逆に周りは自分のできることをきちんとやって、自分で成長してきているし、西田が自分でそんなに抱え込む必要もない、と」

 新入生への配慮では、環境の変化に対する細やかなサポートを重視。高校入学直後の心理的な変化を熟知した洞察力が感じられる。

「最初に高校に入ってきて、一番メンタル的に来るのってこの時期(5月、6月)です。体調もそうですし、最初は気張っているので、2週間3週間ぐらいまでは頑張ることができるのですけど、疲れてくるんですよ」

 この理解に基づき、選手同士のコミュニケーションを促進する環境づくりに力を入れる。一人で悩まずにすむチーム作りへの強い思いが込められている。

「まずは仲間を知ること、自分一人にならないこと、仲間を知って、この人はどんな考え方でどんな人間だっていうところは丁寧にコミュニケーションを図りながら、大人である私達がその補助役になって、チーム運営していく必要があるのではないかなとは今思っていますけどね」

 個別指導法は、現代の多様化した選手たちに対応する新しいアプローチと言える。一人ひとりの特性を理解し、それに合わせた声かけや育成方針を立てることで、選手の潜在能力を最大限に引き出している。技術面だけでなく選手の内面に寄り添う指導の重要性が、現代の高校野球には求められているのかもしれない。

○森大(もり・だい)1990年生まれ。父は甲子園優勝経験のある浦和学院前監督の森士(もり・おさむ)氏。浦和学院で2年生の時に控え投手、3年生の時に主戦投手として夏の甲子園出場。早大、社会人野球の三菱自動車倉敷オーシャンズでプレーし25歳で現役引退。9年前に母校へ戻りコーチを務めながら、筑波大学大学院でスポーツバイオメカニクス(1年)、早大大学院で心理学(2年)を学び、現在は早大博士課程に在籍中。2021年夏に父が退任し、部長から監督に就任した。2022年春に甲子園出場した際は31歳で出場監督最年少。2023年夏も甲子園出場。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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