大谷翔平の“成功法則”を「部活動でも」 34歳名門監督が実践…現代っ子への革新的指導

浦和学院・森大監督が語る、「自己調整学習能力」を育む指導の重要性
「大谷翔平選手が象徴している」と、2021年秋から指揮を執る高校野球の名門・浦和学院の森大監督が語る能力がある。単なる野球技術を超えた、PDCAサイクルを自ら回す力だ。アイスブレーキングから始まる1年生育成、そして将来のセカンドキャリアまで見据えた革新的指導法の断片が、指揮官のインタビューからは垣間見られる。
森監督が、現代の高校野球指導で重視していると語るのが「自己調整学習能力」の育成だ。これは計画、セルフモニタリング(自己観察)、努力、評価・内省、自己効力感の5つの要素からなるPDCAサイクルを、選手自身が回せるようになることを目指す。そのためにも、段階的なアプローチを採用。まずは基本的な人間関係の構築から始める必要があると、森監督は考える。
「例えば1年生。クラス運営で考えた場合、最初は皆、自己紹介とか“触れ合い”をする機会があると思う。まずは、相手にきちんと自分を知ってもらうこと。他者理解、自己理解ってよく言いますけど、そういう意味では自己理解ができてなければ、他者には伝えられません」
自己調整学習能力を経て、内向的だった選手が他者とのコミュニケーションを通じて成長する。その好例が、ドラフト候補の藤井健翔内野手(3年)だという。
「最初は悩み、苦しんでいた部分から自分を理解して、他者と会話をしていくことで、自己を表に出していく能力が身に付いてきました」
実践的な取り組みでは、練習試合後のミーティングを重視する。試合を通じた学習サイクルの重要性を示している。
「先日、1年生の練習試合を群馬の強豪校さんとやらせてもらったんですけど、そこで試合に勝った・負けた、があるんですが、その後ミーティングをする機会を設け、(1年生たちが)自分の思ったことをきちんと話せているかは見ていました」
これが自己調整学習能力のサイクルに直結していると解説。計画→実行→評価→改善のプロセスを野球に応用した考えだ。
「計画を立てて、自分はできると思って試合に臨んだけど結果はこうだった。そのように評価・内省をして、きちんと分析していく。自己調整学習能力のサイクルですよね」

森監督は高校野球について「最後の教育の砦」と位置付ける
ただし、この能力の習得は容易でない。選手一人では困難なため、指導者の補助が必要だという現実的な判断も持つ。指導体制の工夫として、多様化する選手への対応を考慮した分業制を導入する。現代の教育理論であるアクティブラーニングを部活動に応用する意図が込められている。
「そこに大人である我々がコーチングしていく必要があり、あと仲間と連携をさせていきます。いわゆるグループワークです」
従来の一方的な指導とは異なり、ディスカッション、グループワーク、問題解決活動などを通じて、学習者自身が考え、議論し、体験することを重視。この手法により、知識の定着だけでなく、批判的思考力や協働力、主体性が育まれ、変化の激しい現代社会で求められる「生きる力」の習得につながるとされる。森監督の試みは、理論と実践の融合を図ろうとする姿勢がうかがえる。
「これをちゃんと部活動でもできるかどうかというのが、自己調整能力を高めていく具体的な方法になってくるかもしれないですね」
多様化する選手に対応するための体制づくりも重要視する。ただ、一人の指導者では限界がある。専門家による分業制を採用。効果的な指導体制の構築をしている。
「まず自己調整学習能力が上がることで、自律性が高まり、さらにパフォーマンスが伸びていく、そのようなデータが出ています。野球の側面でいくと、野球の能力がやっぱりそのパフォーマンスですよね。そこが上がっていくんだよっていうのは、例えば大谷翔平選手とかまさに象徴的に示しているのかなと思います」

プロ野球界での成功例を挙げて、森監督は自立した選手の重要性を力説した。高校現場での教育がプロでの成功につながるという長期的な視点を示している。
「自立していくという意味では、プロ野球選手も、そうした選手が上で活躍できているのだなっていうのは見ていてもわかる。それを、今の高校の指導現場で、どれだけ子どもたちに伝えていけるかがカギになると思います」
将来への視点では、高校卒業後を見据えた育成の重要性、依存から自立への転換期としての高校時代の過ごし方は重要だ。
「小学時代、中学時代、例えば大人に支えられて、依存を続けた子どもがいた時に、そこから今度はアイデンティティーや価値観をしっかり醸成して、高校でちゃんと大人になって自律していけるかどうかという部分は感じますね」
高校野球の役割を明確に位置づけている。スポーツを通じた人間形成への強い信念が込められた発言だ。
森監督の「自己調整学習能力」重視の指導法は、単なる理論ではなく実践に基づいた現代的なアプローチだ。選手が自ら考え、行動し、成長していく力を育てることで、野球技術の向上と人間的成長を同時に実現している。森監督は高校野球について「最後の教育の砦」と位置付けている。現代の高校野球に求められているのは、こうした長期的な視点に立った選手育成なのかもしれない。
○森大(もり・だい)1990年生まれ。父は甲子園優勝経験のある浦和学院前監督の森士(もり・おさむ)氏。浦和学院で2年生の時に控え投手と3年生の時に主戦投手として夏の甲子園出場。早大、社会人野球の三菱自動車倉敷オーシャンズを経て25歳で現役引退。9年前に母校へ戻りコーチを務めながら、筑波大学大学院でスポーツバイオメカニクス(1年)、早大大学院で心理学(2年)を学び、現在は早稲田大学博士課程に在籍中。2021年夏に父が退任し、部長から監督に就任した。2022年春に甲子園出場した際は31歳で出場監督最年少。23年夏も甲子園出場。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)
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