飛ぶバット“全面禁止”から半年…学童野球への影響は? 性能頼りに変化も…関東強豪の対策

千葉大会決勝で特大本塁打を放った豊上ジュニアーズ・中尾栄道【写真:フィールドフォース提供】
千葉大会決勝で特大本塁打を放った豊上ジュニアーズ・中尾栄道【写真:フィールドフォース提供】

「大人用の複合型」禁止から半年…関東の全国予選から探る学童野球“バット事情”

 小学生の軟式野球では今年から一般用複合型バット、いわゆる“飛ぶバット”の公式戦使用が禁止されている。規則変更による影響は、どの程度出ているのだろうか。そして、全国出場チームが施している対策とは――。「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」の関東での予選取材からは、指導者たちが試行錯誤をしながら、バットの性能に頼り切らない技術向上を目指していることが見て取れる。

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 2021年から34本(53試合)、43本(48試合)、29本(50試合)、39本(50試合)。これは「小学生の甲子園」と称される、「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」での、本塁打数の直近4年間の推移だ。

 この大会では両翼70メートルの地点から特設フェンスが外野に設置されており、本塁打はほぼすべてが「柵越えアーチ」だ。今年はその増減が注目されている。というのも、コロナ禍明けから急速に広まった“飛ぶバット”の使用が、「安全性の確保」を理由に2025年から全面禁止となったからだ。“飛ぶバット”とは、打球部に緩衝・反発用のウレタンなど別素材を用いた「複合型バット」のうち、一般用(大人用)のこと。小学生対象の「少年用」の使用はフリーだが、打球の飛距離が劣ることから、昨夏の全国大会までは一般用の使用が圧倒的に多かった。

 今夏の全国大会は8月11日に新潟県で開幕する。47都道府県での予選のうち、筆者が取材した関東3都県の最終日と、全国出場を決めた4チームの指揮官のコメントなどから「バットの最新事情」を探ってみたい。

 予選大会は特設フェンスがなく、外野への打球はフリーのケースが大半。したがって、本塁打はランニングホームランとなる。千葉大会決勝を15-0の4回コールドで制した豊上ジュニアーズは、圧倒的な打力が目を引いた。ランニングホームラン2本を含む長打7本のうち、半分以上は特設フェンスがあれば越えていたと思われる大飛球だった。

 スタメンの9人全員が、同一メーカーの複合型バットの少年用を使用。すでに製造を終えている旧式のモデルで、現場ではその1本が「最も飛ぶ」と評判だ。高野範哉監督も「去年まで使えた“飛ぶバット”ほどではないけど、普通の金属バットよりは確実に飛ぶ。全国大会に行けば、どのチームもみんな使っていると思います」と語る。

 全国出場は2年連続6回目で、2019年から2大会連続で銅メダルを獲得。優勝候補の呼び声も高い今年は、バットに頼るだけではなく、「強豪チームもめった打ちにできるレベル」(同監督)を目指して、8月の本番まで打力をさらに強化していくという。

東京大会決勝で先制ランニング弾を打った不動パイレーツ・山田理聖【写真:フィールドフォース提供】
東京大会決勝で先制ランニング弾を打った不動パイレーツ・山田理聖【写真:フィールドフォース提供】

飛ばない金属使用→複合バット解禁で得点力が大幅アップ

 47都道府県で唯一、1000チーム以上が加盟する東京都は全国出場枠が「2」。準決勝の勝利で、全国出場を決めた同士で行われた決勝は、不動パイレーツが越中島ブレーブスを14-5で破り、4年ぶり3回目の優勝を飾った。

 この一戦で生まれた本塁打は1本。不動の6番・山田理聖が、90メートルは飛んでいたかもしれない特大のランニングホームランをレフトへ。また、1番・田中璃空も80メートルクラスの大飛球を左打席からライトに放ったが、予めずっと深くに位置していた右翼手にキャッチされている。

 不動では、使用するバットは個々の判断に委ねられているが、結果としてスタメンの9人全員が複合型バットの少年用を使用。そのうち7人までは、豊上ジュニアーズが使用しているメーカーと型番が同一のものだった。田中和彦監督は先々を見据えて、昨年から手を打ってきたという。

「新人戦の都大会1回戦で負けた9月末から、今年の2月くらいまでは、原則として金属バットだけを使いました。複合型は、バットの根本や先っぽでも打球が飛んでいってしまうけど、金属ではそうもいかない。子どもたちには『ぜんぜん飛ばねえよ』というのを肌で感じてもらいながら、重いサンドボールを打つドリルで、振る力とスキルを磨いてきました」

 そして本格的な試合シーズンに入った3月から、複合型バットをチームで解禁したところ、得点力が大幅にアップ。「金属バットなら打ち損じの内容でも、複合型なら飛んでくれるので驚いた子もいたと思います。全国大会では全員が特設フェンスを越えるくらいまで、サンドボールとか金属バットも使いながら打力を底上げしていきたいですね」。不動は3年連続6回目の全国大会で、率いた指揮官は異なるが昨年は3位、一昨年は準優勝を遂げている。

東京大会準Vの越中島ブレーブス・長島穂岳のバッティング【写真:フィールドフォース提供】
東京大会準Vの越中島ブレーブス・長島穂岳のバッティング【写真:フィールドフォース提供】

NPBジュニアのセレクションに向けて「金属に替えた子も」

 東京第2代表の越中島ブレーブスは、課題だった打力の強化に成功して、9年ぶり2回目の全国出場を決めた。「使うバットは個人に任せています」と長島拓洋監督。レギュラーの全員がやはり複合型のバットを使っていたが、メーカーやモデルはバラバラだった。

 1月末の時点で「打球が内野の頭をなかなか越えない」と悩んでいた指揮官は、6年生の双子の息子が通いだした野球塾で、担当トレーナーの打撃理論と生徒に選択をさせる指導法に共鳴。「息子たちが教わったことを私の中でかみ砕いて、チームに還元するようにしました」。

 越中島のチーム活動は週末と祝日のみで、平日は個々に任せられている。そこで指揮官が提案したのは、試合中の打撃動画を各自で見て、考えたり修正をしたりしながら自主練習をすること。そのヒントや引き出しの多くは、野球塾で学んだノウハウだったという。

「打球が飛ぶようになったのは、各自で相当に考えたり、練習してくれたからだと思います。打席での狙いもはっきりして、追い込まれ方も攻撃的になりました。それが大きかったと思います」

 東京大会は1回戦で6番・長島穂岳が左中間にランニングホームランを放つなど、打線が好調だった。決勝までの6試合のうち、5試合で5点以上をマーク。そして全国出場を決めてからは、金属バットに替えた選手もいるという。

「何も強制していませんが、金属バットも悪くないと思います。(複合型バットの使用がNGの)NPBジュニアのセレクションを受ける子もいますし、中・高と硬式野球をやる子が大半だと思いますので」

茨城大会決勝で先制3ランを放った茎崎ファイターズ・佐々木瑠星【写真:フィールドフォース提供】
茨城大会決勝で先制3ランを放った茎崎ファイターズ・佐々木瑠星【写真:フィールドフォース提供】

「少年用でも飛ぶ」複合型も…個々の打力向上あっての全国切符

 さて、茨城県では例年、特設フェンスを設けて全国予選(県大会)を行っている。今年も茎崎ファイターズが優勝し、3年連続12回目の全国出場を決めた。決勝では5番・佐々木瑠星がレフトへ豪快に柵越え先制3ラン。スタメンのほか8人も、豊上ジュニアーズと同じく「最も飛ぶ1本」を使用していた。

 2019年に全国準優勝に導いている吉田祐司監督は昨年、使用バットのルール変更で「ロースコア勝負の昔の学童野球に戻るのでは」と話していた。実際に約半年が経過してみて、そこまで極端な変化は感じていないという。

「全体的に野球が昔のスタイルに戻ってきた部分はあると思いますけど、子ども用の複合型バットでも芯に当たれば飛びますね。ウチは去年は打力に頼って失敗(全国初戦敗退)したので、今年は堅い守備と機動力と小技で1点ずつという昔のスタイルに戻しました。その上で、長打も出るので大量点になりやすいですけど、油断や勘違いをしたくないですね」

 全国大会を狙うレベルでは、少年用の複合型バットの使用が大半。筆者が取材した限り、金属バットを使う選手はごく稀だった。とはいえ、複合型バットは子ども用でも3万円を超える高値。市区町村の一般的なレベルになれば、使用する割合はそっくり逆転するのかもしれない。

 ともあれ、全国を決めた4人の指揮官たちに共通していたのは、バットの性能に頼り切らずに打力向上に余念がないということ。当たり前といえばそうなのだが、果たして今夏の全国大会は……。バットという側面からも取材をしてみたい。

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。

(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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