「僕には何もない」ドラ1が求めた武器 “思考の転換”で発見「打たれても関係ない」

元ロッテ・服部泰卓氏【写真:尾辻剛】
元ロッテ・服部泰卓氏【写真:尾辻剛】

元ロッテ・服部泰卓氏、目指した「波の出ない投手」

 ロッテで2013年に51試合登板するなど8年間のプロ野球生活を送った服部泰卓氏はアマチュア時代、駒大からトヨタ自動車へと進み、ドラフト候補として着実に力をつけていった。振るわなかった社会人1年目とは一転、ドラフト解禁イヤーとなった2年目は主戦としてフル回転。プロ入りを希望していたものの、会社側の「2年間の貢献が前提」という条件もあって1年先送りにする決断を下した。もう譲れない3年目。服部氏は自身の限界を超えるため、1つの“考え方”を根本から変えていった。

 社会人2年目だった2006年。駒大の先輩でもある日本ハム・今成泰章スカウト(故人)から「来年、最初から1位候補として見とくからな」と励まされた言葉は大きな支えとなっていた。「頑張れば、本当にプロに行ける」。強い希望を胸に迎えた勝負の2007年。172センチ左腕の改善点は明確だった。「今日は調子いいなと思ってても、ある回でいきなり5点とか取られるようなことがある。そういうのをなくさなきゃ、プロには行けないとずっと思ってました」。突然崩れてビッグイニングを作ることがある。“波の激しさ”が残された課題であった。

 シーズン前、講義に来ていたメンタルコーチの話でヒントを得る。講義後、そのコーチの元に向かい直談判した。「僕は今年のドラフトでどうしてもプロ野球選手になりたいんです。そのために波が出ないピッチャーを目指したい。毎日絶好調のピッチャーになりたいんです。この理想像になることができたら、恐らく指名される確率がグッと上がると思うんです。そのために助言を頂きたいんです」。自分自身をコントロールする能力を身につけることができれば、さらに飛躍できると考えたのである。

「僕には150キロの直球もないし、変化球も絶対的な決め球があるわけじゃない。かといって四隅をビシビシ突けるコントロールがあるわけでもない。生まれ持った体のデカさ、スケールも足りない。プロになる人ってどれか優れてるけど、僕の場合どれもないんですよ。スケールは別として、直球、変化球、コントロールを磨くために一生懸命練習はするんです。それに加えて自分にしかない武器が欲しい。好調の時は抑えて調子が悪いと打たれるという『当たり前』じゃ、プロになれないんです」

 服部氏から「『5つ目の何か』というものを手に入れたい」という思いをぶつけられたメンタルコーチは、こう返してきたそうだ。「君は『打たれたくない』『抑えたい』って思いながら投げてるんだね。だから波が出る。打者が打つか打たないかは、投手にはコントロールできないでしょ。コントロールできないことにエネルギーを注いでるから余計な力が入ったり、いい時はいいけど悪い時は悪いという当たり前の、よくあるピッチャーの状態になっているんだよ」。

 ハッとさせられた。打たれるかどうかは、打者との勝負次第。失投でも凡打に打ち取れることもあれば、完璧なボールを投げても打たれることはある。注力すべきは「自分がコントロールできること」だけなのである。「『いい球をキャッチャーに投げる』。これだけなんです。いい球がいって『よ~し!』となるんじゃなくて、淡々と同じことを繰り返してやる。バーンって打たれても関係ない。1球1球リセットする。そこに対して、心のブレをつくらないようにしていくんです」。大胆な思考の転換だった。

トヨタ自動車3年目は公式戦19勝1敗の無双状態

「常に新たな思いで1球を投げ続ける。それが1イニング、3イニング、9イニングになって、1か月たって、3か月たって、1年になる。球速とか変化球とか体のデカさとか、瞬間的にアピールする術は持っていないけど、何日かかけながらやるのだったら、僕でもできるかもしれない。それなら『唯一無二の存在になれるんじゃないか』って言われて、僕も言ったんです。『1球とか一目では見せられないから、抑え続けて長いスパンでスカウトに見せていきたい』って」

 3年目の変化。目指したのは“毎日絶好調”の投手だった。迎えた都市対抗はNTT西日本との1回戦で完封勝利。三菱重工長崎との2回戦も好投してチームをベスト8に導いた。JR北海道との準々決勝は2年後の2009年ドラフト1位でヤクルトに入団する中澤雅人投手が先発して敗戦も、主戦として大会2勝を挙げた服部氏は投手部門の大会優秀選手賞を受賞。ビッグイニングを作ることはなくなり、この年は「1年を通して1試合2点以上取られてないんですよ」という無双状態を続けた。

 秋の日本選手権は1回戦で和歌山箕島球友会を2-1で撃破。JR九州との2回戦は3-1と2試合連続で1失点完投勝利を収めた。四国銀行との準々決勝は2-1と接戦を制してトヨタ自動車として初の全国大会ベスト4に進出。王子製紙との準決勝も1失点完投と獅子奮迅の活躍で牽引した。三菱重工名古屋との決勝を逆転で制して初優勝。5試合中4試合に登板し、3完投の服部氏は文句なしの最高殊勲選手賞に輝いた。

 この年、安定感を身につけた服部氏は公式戦19勝1敗と圧倒的な成績を残す。唯一の敗戦も2失点完投だった。「出る大会、すべて賞をもらった感じでした。でも球速も球種も、去年までと何も変わってない。140キロちょっとのままです。変化球も一緒、コントロールも同じ。でも成績は全く違うというほど伸びました。多分、それほど考え方って大事なんだと思います。自分の理想のピッチャー像に一番近づいた年。言ってきたことが実現できた感じでしたね」。

 2度の指名漏れを経験した末に、堂々のドラ1候補となって迎えた大学・社会人ドラフト会議では、外れ1巡目ながら3球団が競合。ロッテが交渉権を獲得した。12月には社会人ベストナインも受賞。25歳の秋、名実ともに社会人ナンバーワン投手となって、ついにプロの一歩を踏み出した。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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