「野球部があるか知らなかった」　4番との約束には“謝罪”…強豪校蹴って選んだ進路

西武で2度の盗塁王に輝いた金子侑司氏

　西武一筋で12年間プレーし、2度の盗塁王に輝くなど中心選手として活躍した金子侑司氏は、2012年ドラフト3位で立命大から入団した。幼い頃からスポーツ万能。高校進学時は多くの強豪校から声がかかるなか、驚きの理由で誘われてもいなかった京都・立命館宇治高に“飛び込み入学”を果たした。

　野球を始めたのは小学4年。夢中だったのは1年生からやっていたラグビーだった。幼少期から足が速く「ラグビーは自分で蹴ったボールを取りに行ったり、独走状態で抜けて走っていったり。コンタクトが激しいのも熱くなれたんです。かなり本格的で鼻、鎖骨、指の骨を折りましたね」。

　中学進学と同時にどちらかに絞ることとなり、胸中は「野球よりラグビーの方が楽しかった」というが、父と相談し、日本国内での人気の高さから野球を選択。「京都嵐山ボーイズ」に入団した。元は右打ちだが、松井稼頭央に憧れて両打ちの練習を本格的に始めたのもこの頃だった。

　スポーツ万能で運動会ではスーパースター。徒競走では「いつもぶっちぎりで1位でした」という金子氏だったが、中学の硬式野球で衝撃を受けた。「3年生はパワーが違う。普通に柵越えも打つし『なんだこれは』と。自分は体格が大きい方ではなかったので」。

　さらに1年生のみで構成される大会では2番手の控えショートに。レギュラーになれなかったことで「真剣に取り組むようになりました」。そこから毎日親子での特訓が始まった。2年でレギュラーを奪い、中3からは打球も飛ぶようになり「レベルが上がるのを実感して、楽しくなりました」。持ち前のスピードも相まって、強豪校が興味を示す選手となっていた。地元・京都は関西地区の多くの強豪校が興味を示していたという。

「でも僕、ビビりだったんですよ。強すぎるのは嫌だし、怖い先輩がいるところも嫌で。実家から通いたかったので寮も嫌だったんです。優柔不断で決められなかったんです」

通りかかった立命館宇治高に“一目惚れ”

　中学のエースで4番の子と一緒の高校でプレーすることを約束していたが、その仲間が古豪の平安高に行くことを決めた。金子氏も誘われたという。「『ごめん。平安なら俺は一緒に行けない』と伝えたんです。申し訳ないことをしました」と明かした。

　中学3年生の10月になっても進路が決まらない中、父と京都府内の高校見学を開始した。候補校の練習、学校の雰囲気を見て回る中で、車で偶然通りかかった立命館宇治高に一目惚れした。「『なんじゃここ！』って。断トツで校舎が奇麗なんです。それだけでここに行きたいと。その時点では、野球部があるかどうかも知らなかったのに行きたいと思ったんです。それくらいインパクトがありました」と笑った。

　中学の指導者らに話を繋いでもらい、セレクションを受けることになったが、すでにスポーツ推薦枠の10人が埋まっていたことを理由に不合格となった。しかし、その数日後、推薦の辞退者が出たという連絡が入り入学が決まった。

　見学した前年の2004年春には初の甲子園出場を果たしており、「専用グラウンドもちゃんとありました」。偶然見かけた外観に魅了され、野球部の有無さえ知らずに希望した立命館宇治高。後に立命大に進み、プロから注目される選手へと成長していった。まさに母校との運命的な“出会い”だった。

（湯浅大 / Dai Yuasa）