2年連続最下位…安堵した“クビ宣告” 決めていた中日コーチ辞任「よかったぁ」

荒木雅博氏は現役引退後、5シーズン、中日コーチを務めた
NPB通算2045安打、378盗塁など輝かしい実績を持つ元中日内野手の荒木雅博氏は2018年に現役引退、2019年から2023年まで中日コーチを務めた。現在は野球評論家として活動しながら、愛知・中京大中京、熊本・八代東の臨時コーチ、社会人野球・王子のアドバイザーなど精力的にアマチュア指導も行っている。貴重な経験になっているそうで「どっちかといえば、僕の方がありがたい感じですね」とにっこり。加えて今後に向けての思いも口にした。
2019年から中日は与田剛監督体制。2018年限りで現役を引退した荒木氏は中日2軍内野手守備走塁コーチに就任した。3月3日のロッテとのオープン戦(ナゴヤドーム)では引退試合が行われ、「2番・DH」で出場。初回の打席(三ゴロ)で交代した。「僕は『(引退の)次の年まで邪魔してやりたくない』って言ったんですけど『1打席でいいから立ってくれ』って。それでやっただけです」と話したが、大歓声に包まれての、それもまた“区切り”だった。
コーチ2年目の2020年からは1軍内野守備コーチ。2021年までは与田監督、2022年、2023年は立浪和義監督の下で指導者人生を歩んだ。「自分が経験したことを伝えていけば、ってところから始まって、でも、いろんな情報が今、多い中で自分もいろんなところに目を向けなければいけないということを勉強した5年間。選手の邪魔にならないような指導をしないといけない、あまり言い過ぎてもいけないってことを感じた5年でしたね」。
2019年5位、2020年3位、2021年5位、2022年と2023年は最下位。与田中日時代の2020年を除き、結果は厳しいものだった。コーチ5年目を終えたところで球団から契約更新しないことを告げられたという。「2年連続最下位だったし(与田政権時から)長くいたし、僕が責任をとらないといけないだろうなとは感じていたので、自分で『辞めます』と言おうと思っていたら、その前に『クビ』って言われたんです」と明かした。
「よかったぁって思いました。どうやって(辞めると)言おうかな、言ったら怒られるかな、とか、いろいろ考えていたのでね。だって角が立ちそうじゃないですか。嫌なのか、不満があるのか、とか……。ホント、そんなこと、全くなく、ただ責任をとらなきゃ、って思っていた時に呼ばれて『ちょっと外に出て勉強しろ』と。『そうですか、頑張ります』とニコニコして答えたら「お前、何でニコニコしているんだ』って言われましたけどね」
そして現在に至るわけだが、野球評論家として外部からプロ野球を見るのは「新鮮です」という。もちろん、一番注目しているのは中日で「とにかく今やっていることを続けて、どこかでドンと伸びる時が来るはずなので、そこを信じて応援していきたい。関わった選手はみんな気になりますよ。今は部外者だから何も言わないですけど、こういう場面で俺だったら、どう言うだろうなって、いつも考えながら野球を見ています」と微笑んだ。
中日の先輩である井上一樹監督に向けても「入った時から、ものすごくかわいがってくれて……。(荒木氏の愛称の)“トラ”も(当時タレントの)荒木定虎さんの名前から井上さんと矢野(燿大)さんにつけてもらいましたしね」と話した上で「監督はいろいろ大変だと思いますが、体を壊さないようにとにかく頑張ってほしいという気持ちですね」とエールを送った。
高校や社会人などアマチュア指導で「僕のほうがありがたい感じかな」
高校野球、社会人野球などアマチュア指導は自身の勉強にもなっているという。「最近の若い子は、とか、よく言うけど、野球がうまくなりたいっていう本質は昔から変わっていない。そこをどうくすぐって、練習をしていって、うまくなってもらうか。そんなことを考えると面白いですもんね」と、やりがいも感じて取り組んでもいる。
「プロ野球選手でしたら、これ質問しちゃうと格好悪いかなとなるじゃないですか。アマチュアはそういうところもない。特に高校生はいろんな質問をくれるので、あ、こういうことを本当は考えているんだ、もしかしたらプロ野球の若い子でもわかっていない選手もいたかもな、って反省もしますよ。ここから教えないといけなかったかな、とかね。まぁ、比重としては、どっちかというと(アマチュア指導で)僕の方がありがたい感じかな」
今後については「野球が盛り上がっていってほしいなというのは特に思っています。もちろんプロ野球もそうですけど、アマチュアの野球もね。野球をやりたいと思う子どもたちが増えていってほしい。野球ってこうじゃなければいけないとあまりにも強く思っている人もやっぱりいますし、いや、実際そうじゃないんだよということも伝えていきたい」と言葉に力を込める。プロ球界復帰に関しては「今は考えられないかな」と話した。
荒木氏は星野仙一氏、落合博満氏ら多くの恩師に学び、いいところを吸収している。将来は中日監督候補として名前が挙がっても不思議ではないが「監督には魅力を感じないんですよ。今の段階では絶対やりたくないですね。まだまだ何かが足りないような気がする。今はユニホームを脱いでいる間にいろんなことを勉強しながらやっていきたいですね」と正直な気持ちも吐露した。
とはいえ、ドラゴンズ愛も誰よりも強く「選手、コーチで28年もお世話になりましたからね。何か恩返しはしたいと思っています。コーチをやらせてもらいましたけど、まだ何の結果も出していませんしね」とも。選手時代は練習に練習を重ねて成長していったが、指導者としても勉強に勉強を重ねており、外部での充電期間を経て、いずれ機が熟す時も来るのではないだろうか。
熊本県立熊本工への高校受験の時の勉強の日々で継続する力に自信を抱いた。外れの外れながらドラフト1位で入団し「お前が何で……」と言われながらも黙々と練習を繰り返し、代走、守備要員からレギュラーの座をつかんだ。最初のプロ5年間では計15安打だったのが、通算2045安打を放った。グラブトスをはじめ華麗な守備を連発し、足のスペシャリストとしても神走塁で何度もプロ野球ファンを魅了した。
下積みが長い選手に勇気、希望を与え、一流の選手には練習の大事さを証明した。超一流の選手の手本にもなる実直な姿勢が、そのまま荒木氏の現在も続く野球人生に結びついている。「もう1回やれ、って言われたら、絶対やりたくないですよ。次は生まれ変わったら、ホームランバッターになりたいです。走るの、しんどいですもん」と笑うが、まだまだ野球と向き合い、走り続けていく。これから先はさらに指導者としても実績を積んでいくはずだ。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)