阪神スカウトの後悔「誠也を推してた」 覚醒を感じた“断トツ能力”「比較にならない」

中日でMVP捕手の中尾孝義氏 鈴木誠也は「グリップと両肘の使い方が分かってきた」
ドジャース・大谷翔平投手を筆頭に、今年のメジャーリーグは日本選手がファンを沸かせている。中日でMVPに輝くなど巨人、西武の3球団で名捕手として鳴らした野球評論家・中尾孝義氏は、現役引退後には阪神スカウトも務めた。カブスの鈴木誠也外野手、今永昇太投手は獲得にこそ至らなかったものの当時、関東地区担当で視察していた。2人のプレーを分析してもらった。
渡米4年目の鈴木は前半戦だけで25本塁打を放ち、すでに自己記録を更新した。打点王争いにも加わっており、今季は大きく飛躍を遂げた感もある。そんな鈴木を、中尾氏は「打ち損じが少なくなった。甘い球を簡単に一発で仕留める事ができています。だから成績が伸びている」と分析。さらにスイングの“変化”を説明する。
「ボールをとらえる時にバットのグリップが上に上がらず、下にパーンと落ちるようになった。それと左右の両肘が体の近くで打てている。力だけを入れて打つよりも、本当はそっちの方が飛ぶ。今年は軽くポーンと打っているように見えても打球がよく飛んでいますよね。これまでは引っ張りが多かったが、今年は他の方向への打球も飛んでいる。グリップと両肘をどこで使えばいいか、本人の中で分かってきたんだと思います」
鈴木は二松学舎大付高(東京)でエース兼主砲だった。2012年秋のドラフト会議で広島から野手として評価され、2位指名を受けた。阪神の1位は大阪桐蔭高の藤浪晋太郎投手(現・DeNA)。岩手・花巻東高の大谷は日本ハムから1位指名された。
「僕は誠也をサードでと考え、将来的には中軸を打てると思ってました。とにかく飛ばす力が他の高校生とは比較にならない。勿論、金属バットではあったんですけど、断トツでした。藤浪が抽選で外れた場合には、誠也を推してました。アメリカで長距離砲にまでなって驚いてますけど、かといってメチャクチャ驚いている訳でもないんです。高校の時から、もう本当に練習の虫でしたから」

今永昇太の浮き上がるストレートは、「広島の大野豊に似ている」
メジャー2年目の今永は今季、開幕投手を任された。5月4日(日本時間5日)のブルワーズ戦で一塁ベースカバーに入った際、左太もも裏を肉離れし、1か月半離脱。それでも7勝を挙げている。今永は大柄でもなく、球速も飛び抜けてはいない。それでも1年目から15勝をマーク。相手も研究を重ねたはずの今年も、チームの信頼に応える投球を繰り広げる。
「球質がいいんでしょう。ボールの回転数だとか変化球のキレ。後はやっぱりコントロール。ボール自体がいくら良くても、甘くいくピッチャーは打たれる確率が高くなり、勝ち星が少なくなる。特に追い込んだ後、どれだけいい所にボールがいくか。好投手はカウントの最初が甘くても、段々厳しいボールになっていく。今永はそれができます」
サウスポーの今永は高めのストレートを有効に使う。「彼は身長が高くない。だから余計にボールが浮き上がっているように見えるんです。球の出どころが低いと、バッターからは、そういう感覚になる」。中尾氏が現役時代に対戦した左腕で、大野豊投手(広島)を彷彿させるという。「大野もちょっと腰を低くして投げるタイプでしたから。ボールの指のかかり方とかも似ていますね」。
今永は駒大出身。2015年秋にDeNAからドラフト1位指名された。阪神の1位は明大の高山俊外野手(現・オイシックス新潟)で、高山は1年目に新人王に輝いた。青大の吉田正尚外野手(レッドソックス)はオリックス1位だった。
「神宮球場でしょっちゅう、彼の投球を見ていました。学生の時の今永は、体がもっと細かった。僕の推しは今永。当然1位で。でもあの時は、球団は1位は野手を獲る方針でしたので。仕方がなかったですね」
鈴木と今永の日本選手コンビは、メジャーでも指折りの人気チームで奮闘する。「今や投打でカブスの顔になりましたね」。中尾氏はスカウト時代と変わらず現在も、2人のプレーに熱視線を送っている。(記録は日本時間27日終了時点)
(西村大輔 / Taisuke Nishimura)