大谷翔平のド軍に殺到する日本企業 担当者「想像していなかった」…SNS時代の影響力

ドジャースには日本企業のスポンサーが殺到
球場の至る所に設置されている、さまざまな看板――。日本のプロ野球やメジャーリーグの中継には企業広告が映り込む。特に大谷翔平投手が所属するドジャースの本拠地・ドジャースタジアムでは、次々と日本企業が進出したことで大きな話題を呼んだ。
選手だけでなく、企業にとっても“アピールの場”となっているスタジアム。業種を見ると酒造メーカーや日用品、家具の販売など、一見すると野球とは全く関係ないような企業も。ただ、大谷選手の躍動や2023年のWBC優勝から続く野球への関心度の高さを追い風に、予想以上の反響を実感する声も少なくない。
「やはり、米国でも認知度は上がっていると思います」
100円ショップの「DAISO」で知られる大創産業のグローバル広報課・後藤晃一さんは大きく頷く。NPB6球団などのスポンサーを務める同社は、大谷と山本由伸投手が加入した2024年からドジャースと新たにスポンサー契約を結んだ。大谷が打席に立つ1回裏のドジャース攻撃時に、バックネットに広告を出稿するなどしている。
大きな注目を浴びたのは、2024年7月21日(日本時間22日)のレッドソックス戦で、大谷が30号を放った時だった。右中間への飛距離473フィート(約144.2メートル)の特大弾は、観客席の上部にある広告看板を超えて通路まで飛んだ。ボールを追ったテレビカメラが映したピンクの「DAISO」の文字は、多くのファンの印象に残る結果となった。
後藤さんも「一番インパクトありましたね」と振り返る。「SNSでも話題になりましたし、メディア2社から取材依頼もありました。全く想像していなかったので。我々がそこに看板をつけてほしいとリクエストしたわけではなく、たまたまボールがそこに飛んだんですけど。社内でも大いに盛り上がりました」と舞い込んだ“幸運”に感謝した。

取引先の息子から知った“影響力”
さまざまなコミュニケーションツールが発達した現代、広告はテレビの枠を超えて、ネットニュースやSNSで拡散されることも多くなった。大谷効果だけではなく、国内のプロ野球に目を転じても、単なる看板が副次的な効果をもたらしたケースがある。
福岡・大川市に本社を置く「関家具」は、“茶目っ気”あふれる広告がSNSで話題になった企業のひとつ。長年、地元のソフトバンクのスポンサーを務める中、2023年からバックネット裏の広告にひと工夫を加えた。所属する大関友久投手の登板に合わせ、企業名の前に小さな「大」の文字を添えて「大関家具」に変更している。
同社の下條一利常務執行役員・営業統括本部長は「あの時が一番話題になったんじゃないですかね。取引先の方やお客さまから『いつも野球で広告を見ています』などと、お声かけをいただくことが多いですね」と笑顔で話す。
影響力は意外なところから感じることもあった。「取引先の息子さんが野球ゲームにハマっていて、そこでも『関家具さんがありましたよ』って言われたんです。ゲームの中で、みずほPayPayドームの広告まで忠実に再現されていたようで」。さらには広告を辞めたことが話題になることも。「(契約対象外の)日本シリーズ期間中に広告が出ていないと『関家具はスポンサーを降りたの?』と多くの方から問い合わせがありました。改めて、影響力の大きさを実感しました」。
認知度や好感度、購買意欲の促進を目的にした企業広告だが、長年親しまれることで球場や試合を形づくる“一部”にもなる。両社も単にビジネス目的だけでなく「チームや選手を応援したい」という思いを乗っけている。大創産業の後藤さんは「野球は国民的スポーツであり、誰もが見て注目されているスポーツっていうというところ。大谷選手、山本選手、佐々木選手ら日本人が活躍している中で、そういったものを広告という形で応援したいというのがあります」と言う。
下條さんも「僕たちの本社が福岡にあり、地元のチームをしっかり応援して、盛り上げようという一体感を得られるので、広告だけにはとどまらず、スポンサーをする意味があるんじゃないかなと思います」と強調する。グラウンドを彩る様々な看板。損得勘定だけでは語れない“思い”が詰まっていた。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)