14時間のバス移動も…ゲリラ豪雨で決断「人命が第一」 アルプスぽっかり“穴”の舞台裏

声援を送る明秀日立のスタンド【写真:加治屋友輝】
声援を送る明秀日立のスタンド【写真:加治屋友輝】

ゲリラ豪雨や大渋滞…試合開始時に間に合わず

 第107回全国高校野球選手権は9日、大会第5日が行われ、第2試合に3年ぶり2回目の出場の明秀日立(茨城)が登場。聖隷クリストファー(静岡)と対戦したが、アルプス席の応援団が“悲劇”に襲われていた。

 3年ぶりの甲子園。さらに学校の創立100年ということもあり、地元も大いに盛り上がっていた。一般生徒、吹奏楽部員、チアリーダー、地元の支援者ら計約260人が6台のバスに分乗し出発する予定だった。しかし、8日の夜に茨城県内で“ゲリラ豪雨”が発生。一部停電になった地域もあったという。移動を統括した後藤朋幸教諭は、「まずは人命が第一ってことでしたので……」と、出発時間を遅らせることを決定した。

 午後9時半に出発した6台のバスに、さらなる不運が重なる。世間は9日から「お盆休みウィーク」。高速道路で大渋滞にハマり、またもやスケジュールに狂いが発生した。「常磐道から首都高、東名、新東名、名神、新名神と全部の高速道路で渋滞にハマってしまい……。どのルートを選択したとしても、こうなってしまっていたと思います」と、苦難の道中を振り返った。

 本来なら9日の午前8時半に到着する予定だったが、とても間に合わない。午前10時39分には試合が始まってしまった。アルプススタンドでは吹奏楽部やチアリーダーのためにキープしていた席が、ぽっかりと穴が空いたような形に。その状況が中継するNHKでも紹介され、SNS上などで話題を呼んだ。結局応援団は午前11時40分頃、甲子園に到着。応援に参加できたのは6回からだった。「いろんな方にご迷惑をかけてしまって、大変申し訳なかったです」と、後藤教諭は恐縮しきりだった。

金沢監督無念「もっともっと長く甲子園を見てもらいたかった」

 北関東から関西へ、約14時間移動。バスに乗り続けた生徒たちの様子は、どうだったのか。8日にコンクールを終えてから甲子園に駆けつけた吹奏楽部員の1人に聞くと、「特に混乱することはなかったです!」と意外にケロッとした顔で答えた。「修学旅行みたいな感じでみんなで盛り上がっていました!」。試合が始まってしまうと、バスの中で動画サイトで観戦。展開に一喜一憂していたという。

 結局試合は1-5で敗れ、1試合限りで甲子園を離れることになった。チームを指揮した金沢成奉監督は「もっともっと長く甲子園を見てもらいたかった、という悔いは残りますが、ありがとうという思いしかありません」と無念の思いをのぞかせつつ、感謝を口にした。短い時間だったかもしれないが、甲子園の記憶は全ての人の胸に深く刻まれたはずだ。

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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