「ウズウズしていた」 左手指がない球児が野球を始めたワケ…家族が明かした素顔

日大山形戦に出場した県岐阜商・横山温大【写真:加治屋友輝】
日大山形戦に出場した県岐阜商・横山温大【写真:加治屋友輝】

1回戦で4打数2安打1打点の活躍、岐阜県大会では驚異の打率.526

 第107回全国高校野球選手権は11日、第6日が行われ、生まれつき左手の指がない県岐阜商・横山温大外野手(3年)が日大山形との1回戦に「7番・右翼」でスタメン出場。同点打を含む4打数2安打1打点と活躍し、6-3での逆転勝ちに貢献した。春30回・夏31回目の甲子園出場を誇る名門校でレギュラーを張る男。これまでの道のりと素顔を、アルプススタンドで家族に聞いた。

 横山は父・直樹さん、母・尚美さんの間に、兄・昂大(こうだい)さん、姉・香穂さんに次いで生まれた3人きょうだいの末っ子だ。小3の時に野球を始めたきっかけは、兄、姉がともに野球をやっていた影響だった。「家の中は野球の話題で持ち切りでした」と語るほどで、野球を始めることは自然の流れだった。

 11歳上の兄・昂大さんは、「幼稚園の頃から僕たちが練習をしている所に来て、『僕にやらせろ!』って言っていました。小学3年になってようやくやらせてもらえるようになって、本人はウズウズしていたと思います」と目を細める。

 小学生時代から投手を務め、高校入学当初も投手だったが、周囲のライバルと自分の力量を考え、外野手に転向することを決断。右手にグラブをはめて捕球し、送球ではグラブを左脇に持ち替え、そこから右手でボールを抜き取って投げるスタイルを確立した。昂大さんは「野手に転向する時も、弟は自信を持っていました。野球に対して実直で、本当にコツコツ練習ができる。本当に凄いと思います」と称賛する。

 横山は2年秋から出場機会を得ると、今夏の岐阜大会では6試合全てで安打を放ち、19打数10安打(打率.526)と大活躍。特に決勝の帝京大可児戦では、3安打3盗塁をマークした。母・尚美さんは「やんちゃで、本当に負けず嫌いな子です。プレーしていることが普通なので、親は見守ることしかないです」と言いつつ、陰で支えてきた。

「少々のことがあっても動じない」藤井監督も全幅の信頼

 一方で、少し違う素顔もあると兄・昂大さんが明かす。「遠征に出掛ける時には母に荷造りをしてもらったりとか、甘えん坊な一面もあります」。家族には普通の高校3年生らしい面も見せるようだ。

 甲子園へ出発する前に兄弟で食事を共にした際、昂大さんは横山が「県大会は緊張しなかったけれど、さすがに甲子園は……」と珍しく表情を固くしていたのを見たという。「でも実際に甲子園に来てみたら、そんな素振りは見せないですよね。本当に頼もしいです」と“自慢の弟”を誇らしげに見つめた。

 横山はこの日、0-1の1点ビハインドで迎えた5回1死二塁の好機に、痛烈なゴロで一、二塁間を破り同点。6-1とリードを広げた後の8回にも、先頭で左前打を放った。県岐阜商を率いる藤井潤作監督は「それはもう、想像するに、子どもの頃からいろいろなことが人より倍くらいあって、ボールの握り替え1つにしても、相当の訓練、練習をしてきたのだろうと思います。ですから、少々のことがあっても動じないだろうと思って、1桁の背番号を託しました」と信頼を置いている。

 境遇に流されず、コツコツと練習を積み重ねてきた横山。「今まで両親に支えてもらっておりますし、それ以外の周りの人にもいっぱい応援してもらったり、支えてもらったりしました。そういう人たちに甲子園に来てもらって“恩返し”ができればと思っています」と言い切った。2回戦も感謝の気持ちを胸にバットを振る。

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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